リクエスト7 | ナノ






本日も天候は良し、気候も適して良い練習日和。
そんなグラウンド内の塔子の機嫌は空の青さと反比例して最悪だった。





(円堂は私と話してたのに…)
ぷくう、と頬を膨らませて塔子はその光景を見つめる。
―――視線の先には、笑う円堂とオルフェウスから引き抜かれたフィディオが喋っていた。
最初円堂と話していたのは塔子だったのだが、そこにフィディオが入り込みあっという間に会話の主導権を握られてしまった。
そのまま2人の話を聞いていられるわけもなく、リカ達に誘われて練習に参加したのはいいが、どうしても視線は2人の方を…円堂の方を見てしまう。
(ずるい、よ。いくらサッカーが私より上手いからって、…男の子だからって)
どうしても羨ましく思ってしまう自分が悲しく思えてしまう。

だってそうだろう、円堂は皆に愛されている。それはもう日本を飛び越えて世界までその魅力は届いてしまっている。
まだ日本にいたのなら、まだ円堂の中の塔子の存在は大きいものだっただろう。
けど、円堂にとっての世界が広くなっていけばいくほど、その中の塔子の存在はちっぽけなものになっていく。
(私の中の円堂はどんどん大きくなっていくのに!!)




思えば、自分は他の女の子達よりは円堂に近い位置にいたと思う。
秋や夏美達はマネージャーだし、今は仲間のウルビダだって元は敵だ(自分も少しは敵だったが)
だから同じ目標を持つ女子のサッカー仲間、としては一番円堂と交流できていただろう。

ただ、その優越感にも似た感情を持て余してしまったせいで今こんな状態になってしまっているのだが。
「…恋って、苦いなぁ」
いつかリカに勧められて呼んだ恋愛小説を思い出す。
内容はいたって普通の内容だった気がするが、その中でも印象的なのが主人公が言った一言。
『こんなに苦いのなら、恋なんてしなければ良かったと思う。でも、きっと私は恋をしなければならないんだね』
まだその言葉の意味を知らなかった私は、ただ漠然と『なら恋なんてしないほうがいいじゃん』と思ったものだった。



―――そして、漸くその意味が分かった。
(私は円堂を嫌いになることなんてできない。どんなに心が苦しくても、この気持ちを誤魔化すことなんて)

だが、それはきっと円堂に恋する者全員に当てはまるだろう。
そして誰もが諦めるつもりなんてない。それは私が一番わかるだろう。
(でも、やっぱり手強いなぁ)
だって総理大臣の娘というだけでなにができるの?
そんな肩書で円堂と一緒にいられたとしても絶対に嬉しくなんてない。

自分自身で勝ち取るもの、それが恋なんだ。







「―――塔子?」
背後からの声に心臓が跳ね上がる。
「え、えんどう…」
声の主は円堂で、手にサッカーボールを持っている。
「どうしたんだ、フィディオと話してたじゃないか」
「や、最初塔子と話してたのにさ、…忘れちゃってたから」
申し訳なさそうに笑うその顔に、何故か胸がキュンとしてしまう。
「気にすんな!!それで話は終わったのか?」
「あぁ…話を、さ。途中で止めちゃったんだ」
「―――え」


話を止めた、なんてどうしたのだろう。
きっとフィディオと話す内容は円堂にとって勉強になる。
…そんなところが、羨ましいんだろうけど。



「だって、フィディオと話してても楽しいけど、俺は塔子と喋っていたかったんだ。…だから、塔子を追っかけてきた」
(なに、どうしたの円堂。どうしてそんな、そんなこと)
「だからさ塔子。さっきの話もう一度聞かせてくれよ。あの時財前総理がどうしたのかさ!!」
(嬉しい、ことを)
さっきまでの機嫌が嘘のように直ってゆく。
現金だと思っても、でも嬉しくてしかたがない。





「…円堂、覚えてるか?」
「ん?どうした塔子」
「…ダークエンペラーズと戦った後にさ、私お前にキス、しただろ?ほっぺにだけど」
その言葉を聞いて、円堂のほっぺが一気に紅くなる。
「―――あの時はさ、ビックリしたよ。いきなり塔子からキスされるし、皆は騒ぎ出すし」
「あははっ、ゴメンな!!でもさ、ホントは私ご褒美のつもりじゃなかったんだぞ」
「えっ」
目を丸くした円堂のほっぺに手を当てる。…やっぱり、熱い。
「今までハッキリ言わなかったけど、私は円堂の事が好きなんだ。…真面目に、一緒にたこ焼き屋をやりたいと思うくらいに」
ドキドキしながらも、顔を近づける。
「とう、こ」
「―――なんて、な。…忘れてくれていいよ、円堂」


(やっぱりダメだ。こんないきなりじゃ逆に嫌われちゃう)
今円堂にキスしたところで、どんな進展があるのか。
逆にギクシャクしてしまうのは明白なのだから。



「塔子、今のは本当に冗談なのか?」
「っ」
ほっぺに当てていた手に、円堂の手が重ねられる。
「俺は今の塔子の話を聞いて嬉しかったけど…それは冗談なのか?」
(え、ちょっと待って、)
どういうことなのか、あの鈍感な円堂がまるで塔子に恋愛感情を抱いているように話している。
しかも捨てられそうな子犬のように、本当に悲しそうな表情で。
(待って、本当に待って)
円堂がフィディオと話していた時に感じていた機嫌の悪さなんかもう欠片もないけれど、今は全く違う意味で円堂の傍にいられない。
(もう、死んじゃいそう)




「えっ、円堂!!私パパに電話しなきゃいけないからまた後でな!!!!」
「塔子!?」
勢いよく手を離して振り返る。
声だけで円堂が戸惑った様子は感じられたが、今の塔子にはそれを気に掛ける余裕なんてない。
だってこんなにも心臓は痛くて、鼓動がこんなにも早い。
(これが、本当の恋の痛み、苦さ)
だけど分かったことがある。
円堂が、少しでも塔子の事を想ってくれていることを、やっと実感できた。
(だから、これから頑張ろう。他の奴らにやっぱり円堂を渡すなんてできない!!)





そう1人心の中で誓い、塔子はグラウンドを一直線に走り抜ける。







「…あれで好き合ってるて自覚してないんやから恐ろしいわぁ」
「さっきからフィディオの視線が痛いんだが」
「嫉妬深い男、マキュアきらーい」


そんなガールズトークが、青空の下繰り広げられていた。





その未知の味は
(時に魅惑的なものです)






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遅くなりましたが、8/20さまリクエストの塔円でした。
memoで塔円書きたいと呟いた後でのことだったので、塔円スキーの方がいて嬉しかったです←
今回のコンセプトとしては、両片想いにしてみました。実は円堂も塔子のことが好きっぽいです。
フィディオは完全に当て馬です。ゴメンね、またフィ円書くからね。
…ちなみに最後のガールズトークはリカ→ウルビダ→マキュアというスペシャルサンクスでした。
待たせてしまってすみません。リクエストありがとうございました!!

〜この小説は該当者さまのみお持ち帰り可です〜