リクエスト3 | ナノ






親しげに名前を呼んでくれる、そのことがとても嬉しい。





「マモル、見てくれよ!!」
「なんだよ、フィディオ。どうかしたのか?」
「アンジェロが作ったんだ。クロスタータっていう伝統菓子だよ」
「うっわー、うまそう!!…なあなあ、食べてもいいか?」
「勿論。マモルのために作ったって言ってたからね」
「わはーっ、じゃあ今度お礼言っとかなきゃな」
そう言って紙袋を受け取ったマモルは、何故か頬を赤らめている。
「…マモルってさ、甘いもの好きなの?」
「えっ、あぁ。好きだけどさ。どうしたんだ」



―――気のせいか、さっきよりも赤くなってる気がする。
(まさか、風邪をひいてる…とか)
彼との付き合いは短いが、それでもなんとなくわかる。
今までの行動から察するに、きっとどんなことがあっても無茶を通す性格なのだろう。
「マ、マモル…。具合が悪いなら、ホテルに帰った方がいいよ」
「…?俺風邪なんかひいてないぞ」



え、と思わず反応してしまう。
風邪をひいていないのなら、どうして頬が赤いのだろう。
「でも、君ほっぺが赤くなってるし。…本当にひいてないのか?」
「あぁ。…ちょっと恥ずかしいんだよ。名前で呼ばれるのなんて滅多にないから」
「…なるほど。そうなんだね」
確かに思い起こせばそうだった気がする。
あの時マモルと共にオルフェウスに協力してくれた3人は彼の事を『円堂』と呼んでいた。
むしろ自分がマモルと呼ぶたびに視線をこちらに向けていた気がする。


「なんでマモルって呼ばないのかな」
「前はヒロトが…あぁ、俺のチームメイトが下の名前で呼んでくれてたんだけどなぁ。なんか馴れ馴れしいからってやめちゃったんだ。…今だと、父さんと母ちゃんと、あとフユッペとフィディオしかいないなぁ」
「ふーん。なんかもったいないね」
「そうなのか?もう慣れてるからそうは思わない…けど」
「でもさ。なんか特別って感じがするからいいなぁ。距離が縮まるっていうか」
そこでふと疑問に思う。
風邪では無かったのなら、それは良いことだ。
それには変わりないのだが、何故か胸のあたりがツキツキ痛む。

「なんでだろ」
「ん?」
「なんでもないよ、マモル。ちょっと考え事してただけさ」
「…でもさ。どうしてだろうなぁ」
「―――?オレなにか変なこと言ったかい?」
「違うんだ。なんかさぁ、他の人が俺を下の名前で呼んでもちょっと恥ずかしいぐらいなんだけど」
そう言ってマモルは此方を見る。
視線の中には、戸惑いとなにかを探ろうとする意図が見え隠れする。





「なんか、フィディオに名前を呼んでもらえるたんびにスッゴく嬉しくなるんだ」
変なんだよなぁ、俺。
と零すその言葉の中に垣間見えた何かをフィディオは捉える。
つまり、それは。


(オレがマモルって呼ぶのを喜んでる…だけじゃないんだよなあ)
これが本当に仲間や友達に向ける言葉ならば、確かに嬉しさもあれば恥ずかしさもあるだろう。
だがマモルの表情や声音を察するに、単にそれだけではないことが分かってしまう。
それは、恐らく自分と同じもの。
ひた隠しにして、決して表にだそうとは出来ないもの。




相手に対する、想い。


気づいてしまえばなんて簡単なことなのだろうか。
マモルが名前で呼ばれることによって感じる嬉しさは自分にとっての優越感。
それを受け入れてくれる彼の想いは自分にとっての幸福感。




「…マモルはさ、もしオレがキヤマみたいに名字で呼ぶようになったらどう思う?」
「え…。…フィディオがそうしたいなら、別に大丈夫だと思う。ぞ」
そしてマモルの反応を見て確信する。


マモルは自分を好いてくれている。
それは他の人物―――ジャパンのメンバーに対するものでは決してないというもの。
即ち、LIKEではなくLOVEであるという事象。





だが、とフィディオは思う。

果たしてこの事をマモルが自覚できているのかという疑問だ。
そしてそれはほぼ100%ありえないと断言できる。
マモルは自覚できていないからこそ、こうして自分と話していられるのだろう。
(だったら、早く周囲を固めてしまおうか)

幸運にも、他の面々とは違って自分はマモルと親しいし、なによりアドバンテージがある。
ならその利点を生かして迅速に行動して、確保することが最善ではないのか。

(そうだなぁ。それが一番有効的で、手早いかも)





そうと決まれば、早速行動をしなければならない。


「マモル、今度イタリアエリアにおいでよ。オレとアンジェロの3人で一緒に料理でもどう?」
「おっ、楽しそうだな。アンジェロにもお礼言いたいし、フィディオが料理するとこも見てみたいからなぁ」
「ッ。よかった。断られるかと思ったよ」
「なんで断るんだよ。でさっ、いつにする?とりあえず日にち決めておこうぜ!!」
「そうだな。じゃあこの日はダメっていうのがあったらメールしてくれないか?一応オレの方も都合とか考えてみるからさ」

「ん、了解したぜ。じゃあ早速戻ってアンジェロが作ってくれたお菓子食べよっかな」
「ぜひそうしてくれ。きっとアンジェラも喜んでくれる」
こうして会話を交わすだけでも満面の笑顔を見せるマモルは、やはり多くの人を魅了して止まないのだろう。
それは自分でもよく分かっている。いっそ人外的なものとして扱っても遜色ないことも実感している。


だからこそ、この好機を見逃せはできないのだ。
いつ誰が横から持っていくのか―――それが全く読めないのが恋愛。



(恋愛に対するイタリア人の本気、見せてあげるよ)


そう小さく宣戦布告をして、フィディオは笑いかけた。






一歩だけ進んでいる
(それはただのミスリードさ!!)





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7/30さまリクエスト『フィ円』でした。
た、大変遅くなってすみません(ヘコヘコ

こう、いろんなフィ円を書く→ボツる→書く→ボツという無限ループを繰り返した結果がこれだよ!!
改めてフィ円の恐ろしさを知りました←

30日さま、こんな駄作で申し訳ございません…もしよろしければ、書き直させていただきます!!
リクエストありがとうございました!!


〜リクエストされた30日さまのみ、お持ち帰り可です〜