徹底抗戦







唐突に、突然に明かされた事に一瞬息が止まった。
だってそれは、とても予期できるものなんかじゃなくて。
予期できたとしても、とても受け入れられるものでもなくて。





「えんどう、さん」
気が付いたら朝を迎えていた。
昨日は明かされた事の大きさに押しつぶされそうになって、ご飯も摂らずにベッドに飛び込んだのを覚えている。
―――いや、きっと自分だけじゃない。あの場にいたほぼ全員、もしかしたら他国の選手も。
彼と繋がりを持つ者殆どがそうなってしまうと不思議と考えてしまう。
これも、彼の…円堂さんの魅力なのだろう。


「どうして…あなたが…」









昨日のことだ。
昼ごろに宿福を訪れたFFI運営委員会と名乗る人物たちは、とてつもない爆弾をイナズマジャパンに突き付けた。
曰く、円堂守を殺さなければ世界は死ぬ。と。
最初は誰も取り合わなかった。いや、逆に委員会を嘲笑さえしたのだ。
だが、向こうが差し出した手紙―――円堂守を殺さなければ、世界は死ぬと記されたそれは円堂が目を通し終えた瞬間青い焔を上げて燃え尽きて。
さらにマグニート山の今までにない活発な動きを知らされて、皆それへの疑いを殆ど捨ててしまった。


狼狽する周囲とは別に円堂はただ話を聞いて、一言「分かった」と言った。
それが事実の確認なのか、自分が死ぬことへの承諾なのか分からず。
あまりのショックにマネージャー達は気絶してしまい、その場はお開きになった。
部屋へ閉じこもる者、無理な特訓をして忘れようとする者。
その中で立向居は、世界が本当に終わってしまう時はこうなのだろうかと考えた。






「ここに、いたんですね」
「…立向居」
場所は変わってセントラルエリアにある展望台。
展望台といっても小高い丘の上の小さな施設だが、それでも空は綺麗に見える。
「…明日はきっと晴れるなぁ」
そう零したのは、円堂。ただ視線を空に向けて呟いた。



「円堂さんは、これでいいんですか」
「……」
「貴方は、死んでしまうかもしれないんですよ」
恐れていた言葉は、不思議とつっかえずに声になる。
今この場で「死」というものを使っていいのかは分からない。
それでも、立向居は続けることしかできない。
「俺は絶対に嫌です。あなたを失うなんて、そんなことできやしない」


きっとみんなそうなのだ。
本当に全てからいらないと思われている人間なんていない。
けれでも、どうして彼なのだろう。
人望も厚く、全てに愛されているような彼が、どうして全てのために全てを投げ打ってしまわなければいけないのだろう。



「俺は絶対に認めません。絶対に、こんなこと」
こんな運命を造ったのは誰だろうか。
こんな悲惨な結末を用意したのは誰だろうか。
こんな別れをさせようとしているのは誰だろうか。



―――なら、その誰かを彼の代わりに捧げてしまえばいいんじゃないのか?―――







「そう、ですよ。認めることなんかしません。円堂さんを殺すなんて、そんなことさせやしない」
「たち、むかい」
「円堂さんを俺から奪うなんて、ダメなんです。俺は円堂さんがいなければダメなんです。他の人になんて、カミサマにだって渡さないです!!!!」
ビクリ、と円堂の体が震える。
(大丈夫。怯えないで。俺があなたを、あなたをきっと守ってみせますから)

「円堂さん、大丈夫です。俺が絶対死なせはしません。どんな手を使ってでも…」
抱き寄せた体は自分より少し大きくて。それでも、しっかりと守らなければいけないということは分かる。



(きっと人は俺を狂ったと形容するでしょう。でも、狂うってどういう定義なんでしょうか。自分の大切な者を守るために手段を選ばないことは、狂うってことなんですか?)
問いに答える者はいない。それでもいい。
自分にとってはこの腕の中にいる人だけがいればいい。
そう、その他にはなにもいらない。
カミサマも、自分すらも。







抗い人
(カミサマだって、殺してみせる)






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