豪円 | ナノ
for you!!













「俺はお前と出逢えて、すっごく幸せだぜ」

その言葉で、どれだけの幸せを与えられただろうか。






空には、満点の星空。
現代の日本とは違い、このジャパンエリアにはあまり街灯というものがない。
だからだろうか、稲妻町にいるときより星がよく見える。
そんな街中を、豪炎寺は円堂と2人歩いていた。


「すっかり遅くなっちゃったなぁ」
「悪いな、円堂。こんな時間まで付き合わせて」
「全然!!これでお前の新しい必殺技が完成するなら一日中付き合ってやるぞ!!」
「…ありがとうな」
豪炎寺の言葉に、円堂は笑うことでそれを返す。
それだけで豪炎寺の胸には暖かな何かが入り込み、不思議にも笑みが浮かぶ。

いつだってそうだ、この小さくも大きな存在に自分は救われている。
気がつけばその大きな慈愛に包まれている。
それが自分だけに向けられてはいる訳ではないと知りつつも、嬉しく思う自分は変だろうか。



「―――なぁ、豪炎寺」
「どうした」
「俺たち、すっごく遠いトコまで来ちゃったんだな」
抱えもっていたサッカーボールをさらに強く抱き締めて円堂は呟く。
「最初はただ、サッカーがやりたいだけで」
「それがFFになって、エイリア学園との戦いになって」

「今度は世界にまで来ちゃった」
「円堂」



「次はどこに行けばいいんだろ、どこへ向かえばいいのかな」
小さな肩が震えたその光景は、豪炎寺にやるせなさを与える。

(いつだって震えているんだ、コイツは)
(それを周りが見ないだけ、コイツが見せないだけ)

「円堂」
自分より幾分か小さい体を、豪炎寺は抱き締める。
「…へへっ、豪炎寺温かいな」
「大丈夫、だ」
「――、」
「お前が道に迷ったら、オレが手を引いてやる。お前が、そうしてくれたように」


悩んだときに、なにも嫌な顔することなく導いてくれるこの存在を、逆に導くことはできるのだろうか。
(そうじゃない、ただ手を取り合って歩けばいいだけの話だ)
損得を何もかも超越した所に、円堂は立っている。
そして、そんな円堂の横に唯一立てるのは、自惚れでもなく己のみだと豪炎寺は思う。





「豪炎寺、別に俺は皆を引っ張っていくのが嫌じゃないんだ」
そう、円堂は微かに笑んで言う。
「苦しいんじゃない、辛いんじゃない」
抱き合ったまま、言葉は続く。


「でも、ホントにちょっと重いときもある」
「みんなの期待が、重石になる気もする」
そう言いつつも、相変わらず浮かぶのは笑顔。
「…お前のおかげだよ、豪炎寺」





「お前がこうして、俺の隣にいてくれてる。それだけで、重石なんてなくなっちゃうんだ」
確かに、息が止まった。
慌てて豪炎寺は円堂を見るが、その視線はしっかりと豪炎寺を貫く。


「ずっと言いたかったんだ。お前、最近俺を見て辛そうな顔してるだろ?」
そうして、漸く体が離れる。
「円堂、オレは別に…」


「ありがとな、豪炎寺」
瞳から、逃れる事など叶わない。



「俺は、お前と出逢えて、すっごく幸せなんだぜ」



「―――ッ」





いつだって、そうだ。
何気ない言葉、何気ない行動に自分は色々なものを与えられている。
嫉妬も、喜びも、苦悩も、幸せも。
こんな、人生を変えるような出逢いはそうそうない。



「なら…円堂、オレは自惚れても良いのか?」
「うぬぼれる…って、なにをだ?」
「お前のさっきの言葉だよ」


幸せ、なんてありふれた単語で、あんなに全てを持っていかれるなんて。
もうこの目の前の存在がいるだけで、自分は強くあれる。
どんなことがあっても、きっと。


「お前は、オレに出逢えて良かったと言ってくれた。…それは今だけの事なのか?」
「…え」
「これから先も、オレはお前の隣にいていいのか?」



沈黙が続く。
星は瞬き、微かにジジジ…ッという蛍光灯の音も聞こえる。


「ばっ、ばか…!!」
そんな静寂だからだろうか、円堂が発した言葉は控えめで。
「ばかとはなんだ、ばかとは」
「う、うるさい…!バカ炎寺!」
前言撤回、恐らく宿福まで届きそうな声で円堂は怒鳴る。



「そんなの…最初からだろ…!!」
「は」

円堂の言葉に、豪炎寺は呆気にとられる。
最初から?ならそれは…





「俺先に帰るからな!!」
そう言い残して、駆け出す円堂。
あんなに真っ赤な顔をしていたら、鬼道や風丸あたりに追及されてしまうだろうか。

(それでもいいか)
そう結論付けて豪炎寺は歩き出す。



星は、やはり輝いていた。












幸せを君に
(互いが互いに幸せ)






----------