harvest | ナノ











(―――眠れない)
そう円堂は思って寝返りをうつ。
空調が悪いわけでもなく、昼寝をしたとかでもなく。
今日も今日とて練習に明け暮れ正直体はボロボロ、休息を取らなければ明日の練習にも響くだろう。

しかしこれが全くの原因不明というわけでもない。
理由は分かっている、分かってはいるのだが――如何せんそれを確認するには円堂に確信が無かった。









今日の練習後のこと、次々とグラウンドから宿舎に帰っていくメンバーたちに言葉をかけながら後片付けを円堂はしていた。
秋達マネージャーからは『今日は特にハードだったから片付けはいいよ』、豪炎寺や鬼道には『その通りだ』と言われながらもなんとか押しきって片付けをすることになり、みんなには悪いが先に帰ってもらった。

(あとは、スコアボードだな…)
紅白戦で使ったスコアボードを手押ししようとするも、何故か上手く進まない。
押すのがダメなら引く、という発想の元引き寄せようとするにもキャスターが上手く動く気配はなく。
「…誰か呼んできたほうが早いかな」
助けを求めるなんて情けないと思いつつも、スコアボードから手を離して足を宿舎の方向に向けようとする。



「―――なにしてんだよ、円堂ちゃん」



その言葉と共に髪をクシャ、と潰される。
「…ふど、う?」
振り向けば、ボールを脇に抱えた不動がどこか楽しそうな顔をして立っていた。
「キャプテン自らが後片付けとは、見上げたモンだな」
「なんだよ、いいことだろ?いっつもみんなに任せっきりはマズいと思うし」
「…ふん」


鼻を鳴らし、少し離れたカゴにボールを蹴り入れる様を見てやっぱりコイツは凄いヤツだ、と思う円堂を気にせず不動はボードに手を掛ける。
「オイ、」
「え」
「なに呆けたツラしてんだよ、そっち持てよ」
「え」
「…ジャッジスルーでもくらってみるか?」
「あっ、あぁあぁありがとな!!」


機嫌を急降下させる不動に慌てつつも、円堂は彼がスコアボードを片付けようとしてくれている事を嬉しく思う。
代表召集の時には考えられない程、不動は以前よりみんなと打ち解けている…ような気がする。
皆の心境の変化もあるが、不動自身の変化が円堂にとって一番嬉しい。





「なぁ円堂ちゃん」
ボードを倉庫に入れて、片付けは終了。
宿舎へと足を向けた円堂を、不動の声が呼び止める。
「?どうした、ふど――」




その瞬間円堂の視界は肌色に染められ、思考は白色のみになった。




(ほっぺが、あつい)
「じゃあ、またな。キャプテン?」
(ふどうのくちが、おれのほっぺに)


そうして、グラウンドに呆然とする円堂を残して不動は去っていった。












そして夜。
未だにそのことが気になってしょうがない円堂はとにかく寝ることができなかった。

(どうして不動はあんなこと)
(俺の反応でバカにしようとした?)
(でも、なんか違った)

(――優しそうな)




「…よし」
寝間着のまま、静かに部屋を出る。
目的地はただひとつ。













「――で、オレのとこに来たってか」
場所は変わり、宿福内・不動の部屋。
そこでは不動と円堂が2人きりという、特に鬼道が目撃したら烈火の如く怒り狂いそうなシチュエーションがあった。

「だって、気になるだろ?なんか言いにくいことがあったら知っておきたいし」
「…ふぅん」
「なんだよ、その反応。お節介で悪かったなぁ」
「はっ、まぁそう拗ねるなよ」

隣り合ってベッドの上で座り、ただ言葉のパスボールをする。
(あ、でも)
またあの顔をしている。
見ていて、なんだか恥ずかしくなるような表情。

(――え)
また、ほっぺがあつい。
触られていないのに、カイロを当てられたみたいにあつい。


「ようやく、芽生えたってか?」



「…めばえた、って。なにが芽生えたんだ?」
「さぁな。そんなことより部屋に戻って寝なくていいのか?キャプテン」
「うぐっ…、誰のせいで寝れなかったんだよぉ」
「自分のせいだろが。とっとと帰って寝ろ。カントクから叱られんぜ?」
「わ、分かったよ。…おやすみな、不動」
「あぁ、じゃあな」



そう挨拶して、不動の部屋を出る。
そのまま部屋に戻ろうとして気づく。
(結局、なんの解決にもなってない!!)
不動に上手く流された、と怒ろうとしても何故だかそんな気もなくなってしまう。

(まぁ、後で分かるかな)
とりあえず今は、早く寝て明日の練習にも備えるのが先だ。
そう考えつつも円堂の意識は、不動の優しげな顔に向いたままであった。








「まったく、自覚がないのは一番恐ろしいねぇ」
そう、不動は1人ごちる。
目を閉じて思い浮かぶのは、明らかに動揺した円堂の顔。

種は蒔かれ、芽吹いた。
あとは時間が、それを成長させるだろう。



「案外、早く実をつけるかもな」



収穫の日を、待ちわびながら。















スプラウト・ハート
(成長する恋心)






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