南円1 | ナノ
やくそくをしよう
*捏造南円過去話
*時間軸おかしいけど細けぇこたぁいいんだよ!!
今でも忘れえぬ景色がある。
遠い昔のこと、ケンカをして孤児院を抜け出した日のことだ。
「…おまえ、なんでそんなかおしてるんだ?」
がむしゃらに走り回った結果、迷子になっていたオレは公園で1人のヤツと出会う。
手にはサッカーボールを持ち、ブランコに腰掛けている子供。
茶色のすごく目立つ髪形と、まんまるお月さまみたいに大きな目。
「きみ、だぁれ?」
その言葉に、養父の言葉を思い出す。
(初めて会う子には、自分から名前を言わなきゃ、ダメだったな)
「オレは、なぐも。なぐもはるやだ。お前は?」
「えんどうまもる。きみ、見たことないけどお引越ししてきたの?」
恐らく何気なく言ったであろう言葉に、息を詰まらせる。
引越しも何も、越す家なんてないのに。
「それよりさ、お前ボール持ってるのになんでブランコで座ってるんだよ」
そんなに大事そうに持っているのなら、それで遊べばいいのに。
「…母さんが、ダメって言うんだ。サッカーやったら、ダメって」
目を伏せてそういう目の前の少年(どう考えたって同じくらいの年だが)にしては、不相応な表情がやけに気にかかってしまう。
サッカーを禁じておいてその道具を与えるというのはどういうことだろうか。
(無駄な期待をさせてるんだ)
その情景に、今の自分の状況を重ねてしまう。
優しい養父と、その養父に特別可愛がられている少年。
(ヒロト…)
彼が養父から特別な愛情を注がれているのを察したのはいつだろうか。
愛されることが極端に少なかったのか、そんなことに気付いてしまった。
(コイツは、オレと同じなんだ)
求めて止まないものを与えられることなく、その欠片だけを与えられるという残酷な慈悲。
「…お前、サッカーは出来るのか?」
「ん。ゴールキーパーなら、出来る」
「そうか」
そう言って、まもるの腕からボールを取る。
綺麗なそれを持って、改めてその真新しさにチクリとする。
「実はな、オレもサッカーできるんだ。PK、しようぜ?」
「、」
一気に表情が明るくなるが、またすぐに翳ってしまう。
「…ううん、いいよ。約束は、守らなきゃいけないんだ」
この言葉と共に、両手を差し出される。
「今はサッカーをいっしょにできないけど、俺たちがもっと大きくなってからまたやろうよ」
その言葉とともに、笑みが浮かぶ。
「また会ったら、いっしょにサッカーしようね」
笑顔を残して、まもるは去っていった。
そのままブランコに座っていると、道路に車が停まる。
見慣れた養父の車、また瞳子姉さんが迎えに来たのかと思い待っていると、車の中から養父が現れた。
「…父、さん」
早足に寄ってきた養父に、そのまま抱きしめられる。
「心配したのですよ、晴矢。勝手に家を出て行って…皆が泣いていましたよ」
「……ウソだ」
「貴方も私の大事な息子なのですから、心配して当然ですよ」
グ、と頭を抱えられて頭を撫でられる。
ふいに、まもるの姿が思い浮かぶ。
(アイツも、アイツも欲しいんだな)
そう思った途端、目頭が熱くなる。
(いつかまたどこかで合えたら、いっしょに遊ぼう。サッカーをしよう)
いつか、いつか。
「おーい、南雲。どうしたんだ?」
その声に意識を浮上させて、声の主を見る。
昔出会った少年とは、成長して皮肉な再会を果たしてしまった。
けれども、紆余曲折を経て約束をした通り現在はサッカーをしている。
雷門イレブンとして、彼の仲間として。
「いいや、なんでもねぇよ。オイ円堂、PKやろうぜ!!」
「ああっ、いいぜ!!ドーンと打って来い!!!!」
かつての約束は、時を経て果たされた。
約束はいらない。
(出逢いこそが、約束なのだから。)
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