(そばに、そばに) |
▼ 部屋に閉じ篭っている子猫が一匹。 声を出さずに泣いている。 声が無くては誰も気付かず、子猫もそれを望んでいる。 しかし、それに気付いた子猫が二匹。 鍵がかかっていない扉を開けて、泣いてる子猫のすぐ傍へ。 ただそっと泣いてる子猫を抱きしめて。 雨が止むのを待っていた。 「―――円堂、円堂」 窓の外は雨。 音も無く降る雨は、グラウンドを濡らしている。 そんな合宿所の中にある円堂の部屋には、2人の客人がいた。 雨が降ったからと中止になった練習時間は個人で好きに過ごす自由時間に変わり、各々が自主練習やイメージトレーニングを行うことになった。 そんな中、豪炎寺と鬼道は廊下に佇んでいた。 これからの練習方法や、連携技のアイデアを練るために円堂の部屋を訪ねた2人であったが、ノックをした部屋からの返事が全く無い。 どこかに行ったのかと考えを巡らせもしたが、自由時間を言い渡されてから時間も経たないうちに此処に来たのだから、出掛けるのならば気がつくはず。 もう少し時間を置いてからにしよう、と鬼道が言おうとした時、豪炎寺は何かに気付いたのか顔を急にあげる。 「どうした、豪炎寺」 「…円堂の声がする」 それを聞いた鬼道も、耳を澄ませる。 確かに何も聞こえないはずなのに、鬼道には声が―――円堂の、恐らく泣き声が聞こえた。 「、えんどう!!」 それに気付くや否や、鬼道は部屋の扉を思い切り開ける。 無理矢理入られるというのを想定していなかったのか、そこまで考えが往かなかったのか。 鍵はかかっておらず、扉は2人を招き入れる。 曇り空によって太陽の光が全く入らず、そして電気がついていることでもない。 うっすらと、ただ姿形を確認することぐらいしかできず、その表情を見ることは叶わず。 しかし、それでも分かる。 今の円堂には、どんな言葉を投げかけても意味を持たないこと。 どんな行動をしても彼に届くことはないと。 「円堂、今はいい。全部を忘れていいんだ」 「俺達がお前の抱えているものを持ってやる。お前が渡そうとしないなら、奪い取ってでもだ」 返答はない、仕草もない。 円堂はなにも答えようとはしなくとも、この2人には分かる。 息をするように、1+1の答えが2であるように、1+2の答えが3でもあるように。 「俺たちはいつだってお前に頼ってばかりだ。いつでもお前という存在に救われている」 救われている、というのはおかしいだろうか。 救いというものは、地位の高い人物が他者を助けるものということ。 しかし、円堂は自分達と同等の存在なのだ。 「雨が止んだら、また笑顔で話そう」 「お前の悩みが晴れなくても、一緒にいよう」 『それだけが、オレ達が唯一お前の為にできる、お前を救える手段なのだから』 言葉は無いまま (言葉が全てを解決できるはずもなく) |