ベクトル2 | ナノ






「…じゃあ、改めて自己紹介してもらおうか。あぁ、名前はもういいぞ。ポジション等試合に関わることだけで」

「手厳しいなぁ、天才ゲームメイカーさん。まっ、いいや。呼び方は守と被るから翔、で構わないぜ。

ポジションはFW、守が最強の盾ならオレは最強の剣ってとこかな」

翔のその言葉に反応する人物がいた。

「それは、僕への挑発と判断していいのかなぁ。キャプテンの弟さん?」

「…残念だが、そのポジションを渡すつもりはないな」

「円堂くんの剣はオレだよ、弟君。豪炎寺君に同じで君に渡すつもりも譲るつもりもない」



同じFWである吹雪・豪炎寺とヒロトである。


それぞれ円堂に想いを寄せる故に、翔の言葉を聞き流すことができなかったのだろう。

だが、先ほどの3人も同時に相手を見やっていることから、互いが互いを牽制してのものだろうか。

「ふぅん。まっ、昔から守のFWはオレだけだからな。あ、鬼道…だっけな。守がGKじゃない試合はオレを使わないでくれよ?オウンゴールしちゃいそうだか らな」

「な…っ」

事も無げに言ったその台詞は、勝利を目指すには明らかに不要な要素。

勝利すらも自ら捨てる、まさしく自殺行為。

「だってそうだろう?オレは世界一になるためにココに来たんじゃない、守と一緒にサッカー出来るからココに来たんだ」

「…おい、翔。どういうことなんだ?昔、お前と円堂になにかあったのか?」

風丸の言葉を聞いて、翔は止まる。

動きを、言葉を、そして表情を。

そしてその静止が動作に変わり、見えたのは―――笑み。





「大したことじゃないぞ、風丸。ただ、オレが守に抱いてはいけない想いを抱き、それを父さんと母さんが気付いただけだ」

「お前は、円堂に恋情を抱いていたのか…?」

「ああ。よっぽど異質なモノだったんだろな。間髪入れずに海外に行かされた―――サッカーを取られた守を、残して」

その時、場に居たメンバーは翔の笑みが先程と違うことに気付く。

侮蔑でも、嘲笑でもなく、自嘲。



「お前達は、どう思う?オレを許せると思うか?サッカーを取り上げられた守を残してサッカーをしたオレを」

そして、挑むかのような眼。

それでいて、試すかのように目線はしっかりと。







「まっ、いいんじぇねぇの?」

口火を切ったのは、意外にも今までだんまりを決め込んできた綱海である。

「それを円堂が気にしてるわけでもなし、それよりアイツ…お前とサッカーできるからって楽しそうだろ?」

「…やけに随分とハッキリ言うな。何か根拠でもあって言っているのか」

なにか癪に障ることでもあったのか、翔は円堂そっくりの顔に訝しげな表情をのせる。

それだけでも、威圧感を感じるのは何故だろうか。



「そんなん、海の広さに比べたらどうってこたぁねえだろ。それに、俺も含めてココには円堂に好意を持ってる奴しかいねェ」

そう言って席を立ち、翔の後ろへと綱海は回る。

右手を振り上げ、いつもそうするように―――翔の背を思い切り叩く。

「ぐ…ッ、」

流石に咳き込むのは堪えたのか、一瞬息を止めただけで翔は持ち直す。

そしてその原因である綱海を睨むが、それを綱海は全く意に介さない。

「許す許さないじゃなくて、お前が円堂と一緒にいるのを楽しめるかどうか、だ」

「…守と、一緒にいることを」

綱海の言葉を受け、翔は胸元へと手を当てる。

何かを尋ねるように、何かを確かめるように。





「…まさか、お前に説教されるとはな。綱海条介」

「ヘヘッ、まぁ気にすんなって!!これから一緒にサッカーやるかもしれねェんだ。ちょっとくらい交流あってもいいだろ?」

「あぁ。そうだな。…だが」

言葉を途中で切り、翔は室内のメンバー全員を見やる。



「お前の言葉にあった、ココには守に好意を持つやつばかり。というのには怒りを覚えるな」

またしても、部屋中の空気が急降下する。

「今一度言っておく。守はオレのモノ、だ。欲しいのなら合法的な手段で奪い取ってみるんだな」



一触即発な状態の中、空気を読んだのか読んでいないのか。

絶妙なタイミングでお盆を持った円堂が部屋に戻ってきた。








絶対的ブラコン
(奪えるものなら奪ってみろ、無理だろうがな)




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