ベクトル1 | ナノ
相対性ベクトル
始めたものは、終わらせなければいけない。
分かたれたものは、戻らなければならない。
「守」
知っている、この声を知っている。
少し遠い過去のもの、それまでずっと聞いていた声。
いきなり去ってしまった彼の人の声で、それでもどこかで求めていた声。
「守、久しぶりだな」
「かけ、る」
服装以外はほぼ鏡写しの姿と、全く変わらない笑顔。
あぁ、そうだ。やっぱり――――
「円堂」
閉ざしていた意識が、急速に覚める。
後ろを振り返ると、代表選抜に選ばれた面々がこちらを見ていた。
「お前、まさか…」
風丸が俺と翔を交互に見やり、まさかという顔をする。
「キャ、キャプテンと同じ顔でやんす…」
「円堂さんが…2人…」
困惑・当惑するその場の空気を変えたのは、一斉にその顔を見られた人物。
「初めまして、円堂守の双子の弟の円堂翔です」
にこ、と言われたその言葉は、同時にその場を混乱させるに至った。
「で、改めてだけど紹介するな!!俺の弟の翔だ!!!!」
「…ども。いつも守がお世話になってます」
雷門中にある会議室・その場には先ほどのメンバーの中から更に円堂に近しい者が集まった。
豪炎寺・鬼道や風丸は勿論、先のエイリア学園との戦いを終えた吹雪・綱海・立向居と断固として帰ろうとはしなかったヒロトである。
栗松や壁山は不穏なものを感じたのだろう、そそくさと家路に着き染岡は所用で帰ってしまった。
「そもそも、どういうことだ!!翔、お前は海外に行ってたんだろう?なんで今この時に日本に帰ってきた!?」
「風丸…、お前は幼馴染が帰ってきたことを喜んでくれないのか?」
風丸の言葉に眉を下げるその顔には、円堂に瓜二つ―――否、似て非なる色がある。
それは正しく嘲笑であり、どこか小馬鹿にしたような表情。
「そもそも、お前は今までどこにいた!?円堂が辛かった時に、のうのうと暮らしてたんだじゃないのか!!」
「―――あぁ、ちょっと落ち着けよ。なぁ
元 DEのキャプテンさん?」
「―――――――ッ!!!!」
「翔!!!!」
突然の翔の言葉に、瞬時にその場の空気が凍る。
緊張・警戒・怒りといったそれらは、決して翔に味方をしないものばかり。
「翔、風丸に謝れ。じゃなきゃ俺はお前をチームに入れることはできない」
「ん、… 風丸ゴメンな。ちょっとカッとした」
「…いや、俺もだな。そりゃお前にも触れられたくないことだってあるよな」
風丸と翔の会話が沈静化したのを感じ取ったのか、円堂が席を立つ。
「ま、皆ノドが乾いただろ?夏未に飲み物貰えるか聞いてくるな」
そう言って円堂が出て行った部屋の中は、先ほどとは比べ物にならないくらいの険悪モードだった。
対象不対称
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