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「―――イェソド、まもるの様子はどう?」
「寝てますよ。…心身ともに疲れ果てているのでしょう、頬をつねっても起きません」
「変わって、ないんだね。5年前からなんにも」
「ふふっ。きっとビナーが言うならそうなんだね。まもるを一番心配していたのは貴女だもの」
「そりゃあ心配するわよ。だって、あの子は――――」










「…東、いいな」
「あぁ。できれば、話したくなんてなかったけど」
そう言って東は、手持ちのバッグから財布を取り出す。
ポケットから取り出したのは…ラミネートされた、小さな新聞記事。
後ろの席に座る面々は何が書いてあるのか分からないが―――前列に座っていた豪炎寺は、呆然とした声音で見出しを読んだ。
「…小学生男児、行方不明」
そう、それは1人の男の子が夜になっても帰宅せずに、そのまま2週間が経過したという内容。
よくよく見れば、『死亡』というなんとも洒落にならない言葉が使われていた。


「――壁山」
「はっ、はいッス!」
「お前は元々雷門に住んでいただろ?覚えがないか、こんな事を集会で話していたことを」
突然名前を呼ばれ壁山は焦るが、風丸の言葉にある事を思い出す。
「そ、そういや一回あったッス。学校に登校しちゃいけないって言われていたような…」
「…実はな、その行方不明になったヤツ、円堂なんだ」



静止、した。
動きも、空気も、もしかしたら呼吸も。
誰もが風丸の言葉の意味を考え、そしてそれを否定しようとした。
けれども、東の言葉がそれをさせない。


「俺たちが小学校3年生…9歳の時に、円堂が行方不明になったんだ。一人で、サッカーの練習をしていて」
そう呟いて、記事を戻す。
「帰りが遅くなって心配した温子さん――円堂の母さんは、河川敷を見に行って残されたサッカーボールだけを見つけた。そのまま警察に捜索願が出されて、色々なところが調べられた」
「それでも円堂は見つからなかった。温子さんは日に日にやつれていって、2週間が経ってとうとう円堂が死んだってニュースや新聞で騒がれ始めた時に、河川敷で倒れていたところを発見されたんだ」


誰も、何も言えない。
いつも明るくて、皆を元気づけている円堂にそんな過去があっただなんて、考えもしなかったからだ。
「温子さんはもちろん、すぐに円堂からサッカーを取り上げようとした。…当然だよな、大介さんがいなくなって、円堂もいなくなったから。でも、円堂は誘拐されてから戻って来るまでの間のことを何も覚えていなかった。結局円堂の父さんが説得して、円堂はサッカーを無くさずに済んだんだ」









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