dal segno










クスクスクス、と笑い声が続く。
時折突風が吹きつけるがそれをものともしないのか、まだ笑い声は続く。
「あぁ、全く愉快な。矮小なニンゲンたちが絶望に喘ぐ姿を見るのは実に楽しい」
長く垂らした三つ編みを風に弄ばせ、そう呟く。
「はッ、まぁそこまでにしときな?ソイツらの魂を、オレ達は『喰らう』んだからなァ」
呟きを返す者も1人。特徴的な髪形のその人物は哂う。

そしてその2人は背に翠色の羽をあしらった服を身に纏い、凶悪な笑みを浮かべた。



ここはマグニート山。
ライオコット島の中心に位置し、遙か昔からの伝説を抱いて眠る火山―――――。





「それにしても想定外なこともあるものだな。まさか海外の者たちまで関わってこようとは」
悠々と広い椅子に座り、三つ編みの人物…セインはそうごちる。
「本来はイナズマジャパンの関係者だけのつもりだったのに、いつの間にか範囲が大きくなっていた。…まあ、私たちの計画に支障はなかったがな」
「それだけアイツが他の奴らにも愛されてたってことだろォ?いいことじゃねぇか、オレ達が得られる魂も多くなる」
「相変わらず愚かな造りの頭だな。憐みさえ覚えるぞ」
そうデスタの言葉を一蹴して、セインは続ける。

「いいか、我らは当初円堂君の魂を食むことを目的にしていた。しかしそれは方向を変え、その対象を周囲のニンゲンに変えるように計画を変更し、そして実行していた」
セインは瞼を閉じる。
すると浮かぶのはあの笑み。
あの笑みが欲しくて、どうしても欲しくて再び魔王への封じられた扉を開けてしまった。
もう2度とあの天井の園に戻れないと知っていても、どうしても欲しかったのだ。

(こんな気持ちを抱いて、もう戻れるとは思ってはいないけれど)



「だから最初我らは影響する力を最小限に留めた。我らの目的は確かに魂を得ること。しかし世界に及ぶ影響はなるべく少ない方がいい。…だからターゲットをイナズマジャパンに絞り、円堂君に降りかかる不幸を彼らの魂を増幅させるために我らはそう『設定』した」

確かに多くの魂を得ることは良いことだ。
しかしそれを行うにはそれだけ範囲を広めなければならなく、そしてその後処理も中々に骨の折れるもの。
だからこそ円堂の周囲にいて、質の良い魂を持つ『イナズマジャパン』を魂を奪う対象にした。



【円堂守が死ななければいけない】という試練を呼び水に、さらに魂の質を高めるために。





「だがそこでイレギャラーが起こった。それが――――」

円堂守と親交を持った、海外の選手達なのだ。



「まァ、最初オレ達もその可能性を考えていなかったんだけどな。全く…ニンゲンは時に予想にもしないことをしでかしてくれるぜ!!!アーッハッハッハ!!!!」
「よくも呑気に笑えるものだ。下手をしたらこの計画が水泡に帰す可能性もあった、それくらいの計算外だというのに」
「いーや?これがアイツの言ったニンゲンの可能性だったらと思うと妙に納得しちまってな」
そうデスタは言い、手に持った林檎を食む。
それを黙って見て、セインは思いを馳せる。


今ここにいない、そしてどこにもいない彼はどんな事を考えているのだろう。
自分たちを憎んでいるか、恨んでいるか。
それともその全てを包み込むような慈愛でもって、自分たちをも許そうとするのだろうか。
「―――えんどう、くん」


「だが、そのせいでジャパンの連中に対する影響も無くなっちゃあ世話ねェな。特にあの鬼道と―――ヒロトだっけな。まさかあいつらがあそこまで行き着くとは」
「だから範囲が広まるといけないのだ。自ずと影響力も無くなってしまう。…あの2人は、答えに辿り着くような素振りを見せたからな、だからすぐに終わらせた。それだけのことだ」
「ほかの奴らには時間をやったのに、随分と心の狭い天使様だなァ?まァあの判断は間違ってなかったってこった」

そう、あの2人だけは他とは違いセインとデスタの計画に支障をきたす恐れがあった。
だからこそ、他のニンゲン達と違い―――【設定】を、少し弄ったのだ。




「まぁ、たとえこれ以上他国勢がでしゃばることがあっても、影響をきたすことは無いだろうなァ。これ以上アイツの死を調べてもなにも分かることがない。全ては霧の中、ってやつだ」
「私の計画がそうそう失敗することはないだろう。―――だが」



けれども、未だ不安要素はある。
どんなに可能性が低くても、どんなに状況が悪くても、全てを覆す、恐るべき存在。



「まだ、円堂君が諦めていない。それだけで、私の中の警鐘が激しく鳴り響く。

まだ終わっていないと、まだ結果は分からないと」


「…ふん、まぁアイツらしいけどな?面白いじゃねェか…そんな人間を、屈服させることができるなんて」
「あぁ…私はそんな円堂君を手に入れたくて、魔王の力を再び得て―――ダークエンジェルと、なったのだから」




きっと終わることはないのだろう、彼が諦めるその時まで。
それでもきっと彼は諦めないのだろう。
彼がそう望む限り、そう希望を抱き続ける限り。



「「だが、我らが負けることなどないのだけれど!!」」



そう狂った口上を述べ、再び2人は哂う。
分かり切った遊戯、決して負けのないゲーム。

それに巻き込まれた者たちの魂を喰らおうとする、純粋で恐ろしい目的のために暗躍する2人は、同時に1人の人間を愛した。

楽園の果実を食べたように堕ちるその先には―――――




決して終わらぬ、メビウスの輪が。





そしてまだ、終わることはなく。











奪い人
(未だフィーネには至らず)








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