それは特別で。


「拓乃がね、好きだけど、何しても無駄に思えちゃうの」

涙声は、珍しくて、僕は、戸惑う。

「いいよ。気にしないで、ね?」

覗き込んで、ギュって抱きしめる力を込めてみた。

抱き締められた彼女は、自然、上目遣いになるでしょう?

僕は、それに弱い男の内の一人で。

久しぶりに会って、約一年振りに生の声が、僕の部屋の空気を揺らす。

そして、その音が、間髪入れずに鼓膜を震わせた。


「やっぱり…拓乃が好きだよ」

ずっと、待ち望んだ言葉。

届いた音を噛み締めて、僕は、微笑った。

そして、そっと音の発信源を、塞いであげたの。

驚いて、すぐに俯く彼女。

「素直な子は好きだけど、さーちゃんじゃなきゃ嫌なの。わかる?」

彼女は、僕を困ったような瞳で見上げてくる。

その瞳は涙を湛えて、潤んでいて。

嗚呼、好きだなぁ〜って思う。

「大丈夫だからね?」

抱き締めた時、何時ものシャンプーの香りが鼻を掠めて。

温もりも、伝わってきて、心音が、耳に煩く聞こえていた。

(今日はなんだか、恋人らしい)


――…

「ねぇ、だったらもっと甘えてみてくれないかな?」

「えっ?!いや、だから…それはちょっと無理かもしれないなーなんて、ね?」

「可愛かったよ、ウルウルしちゃってさ。さーちゃんじゃないみたいだった」

「煩い!もうなんもしてやんないからっ!」

僕の鳩尾に、彼女の本気の蹴りが綺麗に決まる。

彼女といると、青痣(あざ)が絶えなかったりもするんだけれど。


でも、時々しか見られない潮らしい彼女に、ときめいてしまうの。

そんな僕をどうか、許してくださいね。



(bkm/comment)
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