黒田官兵衛懐古録(1/2)

小生のこれまでってのはツキの星に見放されてた。
三成と刑部に暗い穴倉にぶち込まれ毎日毎日穴掘り三昧。
おまけに手にゃ枷、重し付き…っとくらぁ。あーやだやだ、なんってツイてないんだろうか!

でも今なら分かる。それはまだ『普通』の不運だった。

隙を突いて三成と刑部から逃げ出した小生は東軍の門を叩いた。
権現についておけば間違いないだろう、これで三成をぶちのめしてざまを見ろと言ってやれるし刑部の首根っこ掴んで引きずり回してやれる。そう思った。そう思ってた。
ところがそこには、
「アナタは別にいーらないっ!そぉだ!かんべーはぁあたしの役に立たせてあ・げ・る♪」
可笑しな女が居た。

「か、かんべぇが…ひっく、ふぇえん、」
「サイテーな野郎だな、アンタ」
女が独眼竜に縋って泣いている。
小生の頭は突然の出来ごとに働いちゃくれない。
確か…女がいきなり自分の着物を乱して叫んだ。集まってくる人、そして。
何が起こったんだろう、
「お前がそんなやつだとは思わなかったよ」
権現が屑でも見るみたいな目をしている。
とにかく小生は嵌められたらしかった。
どうも小生はその女に迫り襲った、最低野郎になっちまったみたいだ。

それからの小生の扱いってのは畜生以下だった。
刀こそ持ち出さなかったが殴られ蹴られ痣の上には痣が重なり。
ああ、あんまり思い出したくねえな。
ま!小生は体だけは頑丈だからな……そんなでも生きてた。

もちろん女の言葉を信じねえやつだっていたさ。
穴倉から出て小生について来てくれたやつら、それから…。
「おじさま…私がみなさんに本当のことを、」
「やめとけ女巫、どうせ聞きやしねえよ」
「でもっ私これ以上おじさまが傷つくのは…!」
「…その気持ちだけで十分さ……小生を庇ったりしたらお前さんが同じ目に遭うぞ」
女巫が悔しそうに悲しそうに顔を歪める。その目からははらはらと涙。
誰かが小生のために泣いてくれるってだけで、それだけで小生はまだ幸せだって分かって生きる希望が湧いたもんだ。

「ガ、はっ…!」
「Ha!しぶといヤツだぜ」
小生を囲む男たちと女。
にやにや、にやにや。
お前さんら自分がどんな顔をしてんのか鏡で見てみろよ。
腹にめり込む拳。折れた肋が肺の腑に刺さったか嘘のように真っ赤な血が口から零れた。
今度こそ死ぬかもなあ。そう思った時だった。

音の洪水か、それとも光の爆音か。
朦朧とした意識に、
揺れているのは小生の視界か大地か、
悲鳴が、


そして小生が目覚めた時そこは―



「なァ…アンタ、生きたいか」



いったいどーゆう原理か知らんが小生はいわゆる神隠しってのにあったらしい。
そこは日ノ本とはまったく違った場所だった。
そんな世界に迷い込むなんざ小生はやっぱりツいてない!
…そう思っていたのだが、

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