コイツッ気に喰わないッ

辺りは一面真っ青、海。
モビー・ディック号はグランドラインを悠々と、そしてのんびり泳いでいく。
なのに。
「顔ォ合わせるのは初めてかのう……手配書ではよく見た顔じゃけんどなァ」
「ああ。……オレもてめえの噂はよく聞いていたが」
「ほうか」
うわわわ、なんだよここだけ空気重すぎるだろ…!
オレ、シリアス苦手なんだけどなぁ…。


なんだかんだと処刑されずに済んだオレ。とゆーワケでちょうハッピー。
へへっ今ならオレを拷問したインペルダウンのヤツらだって許せそうだぜ。
(だがティーチ、テメェはダメだテメェは必ずオレがぶっ潰してやるからな)
そう一人心のうちで誓っていると(現実逃避とも呼ぶ)険悪な雰囲気ながらもなかなか会話が弾んでいるようだ。
なんかオレがこの場にいる意味なくね?飯食いに行ってもいい?
「どこか陸に着くまででええけん…わしをここに置いてくれ、頼む」
言葉の殴り合いが一段落ついたか途切れた会話。
それをぶち破ったのはサカズキの唐突な申し出だった。
当たり前のようにこれから一緒にいるんだと思ってた。これからまた一緒にいれるんだと思ってた、のに。なのにサカズキは当然の顔をして『期限』を設定してしまった。
なんでだよ、なんでなんだよ…………つーかさあ!頼むとか言いつつ一ミリも頭を下げてねえのはどーゆう事なんだよ!ワケ分かんねえ!!
「は…はあっ!?な、なんで!?ここで一緒に海賊すればいいじゃねえか!」
「…わしは海軍は抜けたが海賊に成り下がるつもりはない。堕ちた海軍将校なんぞ言われるのはX・ドレーク一人で十分じゃ」
「なんか関係ねぇヤツに飛び火した…!」
ドレーク“元”少将にとったらとんだとばっちりじゃねえか。
あ、“元”少将ってことは部下だったりしたのかな。何が理由で海軍辞めたのかコイツは知ってんのかな、後で聞いてみるか。…で、なんの話してたっけ?
「海賊目の前によく言ったもんだなァ…小僧」
上から降ってくる低い声。相当に怒っていらっしゃる…昔、オヤジの酒樽を水にすり替えた時と同じ声だ。
慌ててオヤジの顔を仰ぎ見れば殺意を漲らせておられる、あちゃー。
そんなオヤジと平然とした顔で向かい合うサカズキを、オレは素直にすごいと思う。すごいと思うけど時には引く事も大事だと思うんだよねオレ。
「お、おやじ…っ!」
落ち着いてくれ。そんな思いを込めて呼ぶ、オヤジは分かっているとオレに頷いてみせた。
でもオレの気持ちが正しく伝わったとはまったくもって思えないんだけど。
「エースにゃ悪いが…はじめからてめえをここに置いておく気はさらさらねえ。海の上で放り出すのは勘弁してやるから陸に着いたらイの一番で降りてもらうぜ」
「願ったりじゃ、そうさせて貰うとするかの」
…やっぱりだった、うん。
サカズキ頼むから挑発するような物言いはやめて。お願いだからオネーちゃんの忠告聞いて。
「ああ、そうじゃ…そん時ゃコイツも連れて行くけん」
「…へ、」
ぐわしっ、と頭を鷲掴みにされる。
なあ今これはどんな状況だ誰か分かりやすく教えてくれ。十文字くらいで。
「こんな危ない場所に…海賊の巣窟にエースは置いちょけんわい」
オレも海賊なんだけど。
まさか忘れちまった?認知症?
「何…?オレの可愛い息子は簡単にはやらねぇぞ」
「ほんなら力尽くで連れて行くとするかのう」
「え、え…ええええ……」
おいおい、いつからそんな話になったんだ。つーか船の上で頂上戦争する気かよっ!
退避ー!総員退避しろーっ!
もちろんオレも大急ぎで二人から離れた。
命あっての物種、せっかく繋いだ命こんなトコで散らしてたまるかッ。
「なあマルコどうにかしてくれよ」
「無茶言うなよい」
まさか「私のために争わないで…!」と涙ながらに言わなきゃいけない展開なのかコレ。
それなんて無理ゲー。
グラグラとマグマグの前じゃメラメラなんてか弱いロウソクの火っすよ。
睨み合うオヤジとサカズキにオレの声は届きそうになかったので、諦めて飯を食いに行った。
面倒だったからとかじゃない。

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