岸辺露伴だって動く

ぼくの名前は岸辺露伴、漫画家だ。
君が知ってよーが知ってまいがどうでもいいが『ピンクダークの少年』という漫画をジャンプで連載している(今は七部を連載しているところだ)。
あれは傑作だ、ぜひ読んでくれ。

話は変わるがぼくは作品のリアリティを何より重視し、そのためにはなんだってする。

この時のぼくは妖怪モノってヤツを書きたくなって『妖怪伝説』のある山を取材していた。もちろんリアリティのためさ。
ところがその山がリゾート開発なんてクソくだらねーことをされそうになり、ぼくはその山の周囲の山を六つ買って道路工事を阻止した。
で、もちろんリゾート開発の計画はおじゃん。そのせいで地価は暴落。買った山は二束三文になっちまって、ぼくは現在進行形で破産の憂き目に遭っているのだった。

これから語る物語は、そんなぼくがどうしたのかっていうちょっとした話だ。


「とゆーワケでモン無しってヤツなんだ、君の家に泊めてくれないか」
現状を淡々と時に臨場感たっぷりに語った後、ぼくはその言葉で締めくくった。
確か彼は一人暮らしをしてたはずだ、ぼく一人くらい転がりこんでも支障はないだろ。そう思ってこの『彼』に頼んだが、それ以前に他に頼むヤツがいないのも真実だ。
目の前に座る彼、スーツ姿ですっかり社会人らしくなった康一くんはズーッとコーラを飲んでから、
「まあいいですけど…」
溜め息混じりに答えた。
それはぼくの欲しい『答え』だったからまあいいけどね、彼が溜め息つこーが鼻で笑おーが。
とりあえず住む所が決まったところでぼくも何か注文しようかな、お金はないけど。なんだかんだ文句言っても康一くんが奢ってくれるだろ。
通り掛かったウェイターにペリエとベーグルサンドを頼む。康一くんはもう一度溜め息をついた。
「本気の本気で一文無し?」
「ああ、『セーラームーン』のフィギュアも『レッド・ツェッペリン』の紙ジャケも『るろうに剣心』も全部売っ払っちまった、なァーんにもない!唯一残った財産はこの『ド・スタール』の画集だけさ」
ほら、と唯一の持ち物を彼に差し出す。
康一くんはそれを受け取って興味なさげにぱらぱらとページを捲った。
「馬鹿じゃないですか?」
「うるさいな」
クソッタレ仗助やアホの億泰は彼のことを『普段は優しくって、イザという時はスッゲー頼りになるヤツ』とか思ってんだろーケド、そりゃ間違いだ。とくに『優しくって』の部分が。
コイツほど容赦ねーヤツをぼくは知らないぞ。
「昔っからそーですよねー、考え無しって言うか、無謀って言うか…」
「それは『いつ』の昔の話だい」
「さあ。でも心当たりはありますよね?」
「…フン」
「まあでも…そういう姿勢、尊敬しますよ。周りを一切顧みないで自分の思うままに出来る純粋さ。あの時のボクには眩しすぎたけど……憧れてました」
…ンだよ、尊敬とか憧れとか……恥ずいじゃないか。
よくそんな言葉を素で言えるな。
それでもさすがに照れくさかったのか康一くんは「へへっ」と意味のない笑いを浮かべて、すっかりないはずのコーラをストローでズズーッと吸った。
「見習ったっていいんだぜ」
「それは遠慮します」
真顔で言わなくったっていいだろ。

広瀬康一…このあと露伴のために服や生活用品を買いに行った。
岸辺露伴…康一に連れ回されて不機嫌になるがクレープで回復した。

←To be continued...

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