異次元迷子

「…あれ、畳だ。変なの」
俺が目を覚ましたのは見覚えがあるかないかで言えば『ある』部屋だった。
でも見覚えがあるからって俺がここにいるという事実はあり得ない。あり得ないのに起こっているという言葉の矛盾。
文机、茶箪笥、火鉢に水瓶、本の山……その様子は昔の俺の部屋、俺が『我』だった頃の部屋とまったく同じだ。
「あり得ない」
俺の声が虚しく響いて襖に跳ね返った。
えっと…少し冷静になって思い返してみよう。もしかしたら何か手がかりがあるかも。
俺は確か昨日は仕事。帰ったのが確か午前二時頃だったかな、それくらい。真夜中回ってたのなら昨日じゃないか。それはどうでもいいとして……ちょっと疲れてたからシャワーだけ浴びてすぐに寝たんだよね、確か。
あっ。髪乾かさないで寝ちゃった。カルトに怒られちゃう……おっと、横道に逸れた。
そして起床、今に至る。
「結局原因らしい事は何にもなかったや」
寝てる間に念でもかけられたのかな。
うんうん悩んでいると足音。
刑部の部屋に来るとしたらやっぱりあいつかな、
「刑…………貴様ァッ刑部をどこにやったァァ!!」
襖を開けたのは予想通り三成だった。斬りかかりでもしてきそうな形相をしている。
改めてまじまじと顔を見ると本当に目付き悪いな。
「俺だよ俺、俺がその刑部」
「ほざけ!鏡見ろッ全然まったくもって違うッ」
ビシィッ。
指を突きつけられる。
まったく、人を指差しちゃいけませんって教わらなかった?
「あ、ほら。目が二つに鼻一つ口も一つで耳二つ、ね?そっくり」
「っこ、この言い種は刑部、だとォ!?」
「……まさか納得されるとは思わなかった」
嬉しいやら悲しいやら。


俺としては場所を移してお茶でも啜りながら話したいところだけれど、
「で、だ。何がどーなってこうなった」
どうやら三成はそれを許してくれなさそう。
そんなに眉間に皺を寄せてたら跡が付くよ。
腕を組み、俺を見下ろす三成に言ったら殴られた。
真面目にしろって?……そんな事より正座痛いんだけど、何で俺正座させられてんの。
「…ところでさ、この顔見覚えない?」
「アーン?あっHUNTER×HUNTERの…ほら暗殺一家の…ほら、アレだ」
すごいすごい、三成にしてはよく覚えてた。
別に三成が馬鹿だとか言ってるんじゃなくて…ほら、三成って興味ない事ってとことん覚えないから。例えば青いお侍とか、もしくはピエロとか。
「そ。俺は刑部として死んだ後にHUNTER×HUNTERの世界に転生て…そこでイルミ=ゾルディックとして生きてたんだけど、何でだろうね寝て起きたら『ここ』に居た」
「つまり原因は分からんがトリップしてきた、と」
「うん……いや、どうなんだろう、うーん、この世界の刑部にイルミの記憶が流れ込んで精神に合わせるために肉体が変化した、みたいな感じが一番近いような」
「さっぱり分かりません」
何となくの推測と直感を説明したが三成は首を傾げるばかり。
と言うか即答って…絶対分かる気ないだろ。
「つまりこの身体は本質的には『刑部』のままで、ハンター世界にはイルミのままの俺がいるけど今ここにいる俺はイルミでありながら刑部なんだ」
「もっと簡単に!」
「俺がイルミでイルミが刑部」
「暴論来たー!」
考えるんじゃなくて感じたらいいよ。
…別に俺が面倒になったからとかじゃないからね。

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