Unblendable

彩色のない、長い石造りの廊下。無駄に高い天井のせいか、それとも日輪のないこの世界の気候のせいか停滞する空気はとかく冷えている。
そこを我は歩いていた、
「乳首鬼ついてくるでないそして我にもたれるな暑苦しい」
「いいじゃねえかよぉ」
―馬鹿と。
共に居たくてそうさせているのではない。
我は非常に不本意であるという事を今一度ここに明らかにしておきたい。
我はしなければならぬ用があるが、この馬鹿の事は知らぬ…ただへらへらとついて来るだけでこやつに用があるとも思えぬ。
「つーか乳首鬼ってなぁなんだ」
「そのままの意味ぞ。今も昔も乳首を晒しおって…恥を知れ」
「いやー服着るのが窮屈でなっ!」
窮屈だから…それで何故その様な選択になる。
こやつは生まれ直そうともやはり頭が悪いらしい。
「人なら人らしく羞恥心を持て」
「や、人じゃねぇだろ今」
余計な知恵だけは持ちおって。ただの言葉の綾であろうが。
「斯様な揚げ足を取るでない。不愉快だ。大体貴様は昔から、」
「あー」
「おっワンダーワイスじゃねぇか」
「聞け、乳首」
柱の陰から覗いてくる餓鬼に気付き彼奴は無駄に笑う。
我の言葉を無視するとはいい度胸だ。
ぺたりぺたりと足音をさせて餓鬼がふらふらと近寄ってきて、鬼は、
「ほーら高い高ーい」
「あーあー!うー!」
相好を崩して餓鬼を抱き上げる。
「聞かぬか」
…。
我を無視するとはいい度胸だ、貴様の腹にもう一つ穴を開けてやろうか。
一人決意を固めていると駒、
「ウルキオラ…ここに居たのか」
「…ヤミーか」
もといヤミー・リヤルゴが声を掛けてきた。どうやら我を探していたようだ。
一体何だ、つまらぬ用であったら斬り捨ててくれる。けして八つ当たりではない。
「グリムジョーと一緒とは珍しいな」
よし、斬る。決定した。
藍染とやらに何か言われようとも我の知った事ではない。
くだらぬ事を言う低脳はいらぬ、それだけぞ。
「っべ、別に一緒にいたわけじゃねえし!ソイツが俺についてきたんだよ!」
何故貴様が噛み付く。
それにその状態…餓鬼を抱え上げた状態で言われてもな。
「あー……そうか」
「……」
…………はあ。もう否定するのも面倒ぞ、彼奴の好きに言わせておくか。
「本当だからなっ」
腹は立つが。心底腹が立つが。腸が煮えくり返るが……口を開くのが億劫だ。
我の用…現世より連れてきた井上とかいう女の世話をしに行かねばならぬ今、これ以上面倒事に時間を割きたくはない。
「大体オレはテメーらに付き合ってられるほど暇じゃねーんだよ!用があるからついてくんなよっ!」
そう無駄に叫びながら彼奴は小脇に抱えたそれと共に去っていった。
ほう、貴様に用があったとはな。……ワンダーワイスを持ってか?
「…アイツは何がしたいんだ?」
「知るか」
馬鹿の考えが我に分かるはずがなかろう。

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