某国隠れ家にて

忍っつっても任務から離れりゃただの人。
それは抜け忍のオレも同じだ、と朝飯の仕度をする白の背中を見ながら思う。
オレたちの首を狙ってくるヤツがいつ現れるとも限らねぇが、それにしたってよくある『普通』のこの光景……地味な幸せがディモールトべネ。平穏最高。
とんとん、と包丁の音に長い黒髪がふわりと揺れる。
うーん、いまだにコイツが男ってのが信じらんねえ…裸だって見た事あるのによ。
「まんま女だな」
オレがそう言えば、決まってコイツは、
「どうせそのうち成長期が来たらゴツくなりますよ」
とか苦笑いで返してくる。
が、多分それはない。オレの全財産(今も昔も財布の紐はコイツに握られているから微々たるもんだが)賭けたっていい。
「白、飯」
「はいはーい」
こつ、と音が響く。
窓枠に留まった鳥が嘴でガラスをノックしてもしもお〜し。慌てて窓に駆け寄る白。
久々の依頼ですね、と顔が輝いていた。
ところが忍鳥の足につけられた文書を取り読み進めていくうちにその顔が曇る。…一体何が書いてあったんだ。
「再不斬さーん、ガトーショコラとか言う名前の人から依頼来ちゃいました」
「ア゛ー?何だその甘そうな名前」
何でそんな困った風に…あっ、どうせまた芋掘りとかだったんだな?それか名前的にカカオ豆の収穫か?
とにかくさ、新聞広告で依頼募集するのやめようぜ。碌な依頼が来やしねえ。
「橋作り名人タズナの暗殺…なんですけど」
うんうん、やっぱりね、ナズナの収穫かぁ、そっかそっか……
「…え?」
「…」
え?暗殺?お前それ本気で言ってんのか?
「っ!?死亡フラグバリバリじゃん!」
「死亡フラグとか言わないでください。あとバリバリってのと語尾をじゃんにするのも」
「それ全否定じゃねえか」
「そんな事よりどうします?」
「どうって…どうするよ」
もう結構うろ覚えだけでここだけは覚えてるってか頑張って思い出した。何せオレたちの生死に関わってるんだから。
受ければ主人公組と鉢合わせそして死亡。
受けなければ代わりのヤツが雇われるだろうがそうなった時主人公たちが死なないって保証はねえ。主人公たちが今ここで死ぬと後々困る、ほらー忍大戦だっけ?困るでしょ?
あークソッここが原作変えても大丈夫そうな平和な世界だったらよかったってばよ!
「まあ…もう悩むだけ無駄ですけど」
「何で」
白が笑いながら指差す方には空へと飛びたった忍鳥。
力強い羽ばたきでその姿はぐんぐん小さくなっていく…。
「依頼承諾のお返事もう飛んでっちゃいました」
「じゃあ何で聞いたしッ!」
「ふふ…悩む再不斬さんの顔が面白いからですね」
頭を抱えるオレを楽しそうに見る白。
その笑顔は男とは思えないほど可愛いけど、あー性格悪い!
「安心してください再不斬さんはボクが死なせません」
「…おい。むしろその発言が死亡フラグだと思うのはオレだけか?」
「あははは、分かってて言ってます」
タチ悪ぃ。
睨むオレもなんのその。
顔の種類が笑顔しかねえんじゃねーのと疑いたくなるほどにっこにこだ。
「さっ、朝ご飯にしましょっか」
「…ああ」
マイペース野郎め、と俺の悪態は虚しく響いた。

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