風呂屋物語

「お前は今日から三…みつだよ」
ふと湯婆々の言葉を思い出した。

官兵衛じゃないが私はツキの星に見放されているのかも知れない。
ひょんなことから私は不可思議な世界に迷い込んでしまった。そこでは消えないためには仕事をしなけりゃならない決まりになっているそうだ。ところで『ひょん』って何だろう。
この店が湯屋で、アニメではとてもお見せ出来ないドロドロとしたアレ的なお仕事内容ももちろん私は知っていた。
しかし私の体は男で、だから働くといってもこう…下男的な仕事をさせられると思ったのだが。
「いいかい、みつ。お客様に身を捧げて『きれい』にして差し上げるのがお前の仕事だよ」
それがまさか体を売る羽目になるとは。とりあえず言われた直後、婆ァに目潰し食らわせたのは私の正当な権利だと思う。私にだって敬老精神はあるが例外だってある。
…とは言っても私の貞操は無事だ(これ重要)。
「へい旦那、お背中流しやしょう」としてやってそのあとは私のマッサージテクでメロメロにしてやり忘我状態の内にお帰りいただいた。ゴッドフィンガーと呼んでくれて構わない。
それでもコトに及ぼうとした輩は居た。
もちろん殴り付けた。
お客様は神様だ、そのままの意味で。
暴力沙汰なんてまずいよな、婆ァに解雇されるかもな、いっそそれでもいいかな、とか思った私に自重する気はゼロ!
もちろん殴り飛ばした。
ところがどっこい、殴ってやったヤツは懲りずにまたやって来る。むしろ殴られに来るようになってしまった。……特殊な性癖を植え付けてしまったのはまずかったような気がする。
まあそんな風に私は中々愉快でスリリングな日々を送っていたのだった。
「アーン?次の客は東照大権現?……嫌な予感しかない」
婆ァが絶対に粗相をするな!と掴みかかってきたのを適当にあしらいながら思っていたが、
「まさかとは思ったが、三成か!本当に三成なんだな!?三成!会いたかったよ三成ぃ!」
嫌な予感ばかり当たるのは何ででしょうね。
私の肩を渾身の力で掴んで(痛い!)ぐらぐら揺らしてくる黄色、もとい男。
大権現なんて呼んでやる気はないね、こんなヤツ狸か家康で十分だ。
私はコイツの拳が重い事を知っている、コイツが変態だという事もよく知っている…残念ながら。
「………」
「?どうしたんだ三成」
眉を下げた狸面…間違った間抜け面で私の顔を覗き込む家康。いつもそーゆう殊勝な顔付きをしていればいいのに。
それにしても、
「みつ、なり…?」
どうにも聞き覚えがあるようなないような。
「…って!やっっっべぇ!忘れてたッ!そーだよ三成だよ私の名前はみつじゃなくて三成だァァッ!」
「あー、湯婆々はその者の名を奪って支配するらしい。お前が手遅れになる前に名を思い出せてよかったよ!…少し危ないところだったみたいだが」
まったくもって癪だが、どうやら家康が私の名をしつこく呼んだから思い出せたようだ。その点についてだけは礼を言ってやってもいいかなとか思ったり思わなかったり。
「それじゃ三成、お風呂…一緒に入ろうか。そしてそのあとは…フフ」
「…は?貴様ソレ本気で言ってんのか」
「当たり前だ!せっかくの機会だからなっ!」

今から私は神殺しを決行しようと思いますまる

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