神隠されました。(1/3)


ここはどこだ。

神の悪戯とでも言うつもりか、まったく唐突に見覚えのない場所に立っていた。
目の前は森。
辺りを見回しても森。
鬱蒼と生い茂る木々が立ち並んでいて、ずうっと奥の方は暗がりに落ちている。
昔話で山姥が出そうないかにもな森…とゆー表現がしっくりくる。
茂みの向こうで息を押し殺すナニカ、それが虚ろな眼窩でコチラの様子を窺い……おおおお……己の想像力が恐ろしい。もう何かが『出る』としか思えなくなってきた。
「三、」
「ひぎゃっ」
「…成、すまない驚かせたか?」
「な、なん、なんだ家康か、」
声を掛けるなら一言私に断ってからにしろよッ!
憤懣やるかたない思いで振り返る、予想通りの眉を下げた狸顔がそこにはあった。
何となくだがここら辺の照度が二十ルクスくらい上がった気がするのはさすが光属性って事だろうか。ううむ、あって便利な簡易照明家康。
「…別に、貴様がいて安心したとか思ってないんだから」
「はいはい、分かってるさ」
「むう」
それにしてもここはどこだろうな、知るワケないだろ、とあまり実りのない会話をしていると、
「おいあいつら今、空中から湧いて出なかったか…!?」
「まさかモノノケ!?」
「…とにかく、曲者であることに間違いはねえだろ」
ちょっと向こうに怪しげな人影が三つ。
円陣組んで少しばかり大きなひそひそ話をするのは、格好からして女…だろうか。
(…こんな森の奥に女?)
どう考えても怪しい、裏がありそうだ。ここはひとつ慎重に……
「そこの人たち!ちょっといいか?」
「待て、待て!ちょっと待て、山姥かもしれないだろ迂闊に声を掛けるなッ」
なんだってコイツはここまで警戒心がないんだ。
「はははっそんなワケないだろー。三成は怖がりだなあ………すまない、少し聞きたい事があるんだがいい、か…な…」
言わんこっちゃない。
家康の場にそぐわぬ朗らかな呼び掛けに『女』たちが振り返り、その、
「ッバ、」
「…ば、」
対面した面相はそれはもう形容しがたい様で、家康も珍しく引き攣った顔で硬直した。
((バケモノ…!))
山姥は実在した。
もうダメだこれは残念ながら三枚のお札は持ち合わせてない頭からばりばり食べられちゃうんだ秀吉様半兵衛様刑部先立つ不幸をお許しください。
脳内に流れるのは走馬灯か。ホンダムに無理やり乗せられた時以来だ…お久しぶり。
「なんなんだよその目はっ言いたいことがあるならハッキリ言いやがれーー!」
「「うわああああっ」」
顔をおっきくする勢いで迫らないでくれーッ!

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