それは、無礼千万

今日も今日とて接待役…もとい監視役の俺は天女やらその取り巻きやらの元へと行かねばならぬ。憂鬱だ。
天女はやれ城下を案内しろ、やれ茶菓子を出せ、と要望を盛り沢山押し付けてくるは、石田ミツナリに会ったもう一度会わせろと言ってくるは、半兵衛様の執務中に闖入するは、半兵衛様の自室を襲撃しようとするは、それで俺が半兵衛様に睨まれるは…半兵衛様の事ばっかりだな…とにかく手を煩わせてくる。
武将共は天女に近寄るなだとか兎にも角にも喧しい。
重い気分を抱えてあれらを押し込めた離れの方へと足を進めていれば、何やら争う声が聞こえてきた。
「さて、今度は何をやらかしたのやら…」
武将共が一人の女中を囲み、何やら激しい語調で言っている。
女中は青い顔でひたすらに頭を下げているだけだ。
天女は、と言えば
(哂ってやがる)
武将共より一歩後ろ辺りで女中を見ていた。
「何をして、おいでか」
俺が声を掛ければ奴等は一斉に振り返った、その眼力たるや…おお恐や!
「ちょー…っと注意してただけなんだけどねー?」
「注意?そりゃ一体、」
「アンタ石田ってヤツだっけ?…そこの女中が真姫に向かって暴言を吐きやがった」
長曾我部の言葉を肯定するように
「すっごく怖かったのぉ」
泣き顔を作り伊達に縋る女。…伊達は何ともだらしない顔を晒している。
「そうなのか?」
「私は竹中様のお手を煩わせるような事は致しかねます、とそう申し上げただけで御座いますれば」
問えば、女中は顔を青くしていたがきっぱりと言い切った。
「暴言、と呼べる程のものでは無いようですな」
我ながら随分と面倒臭そうな声が出たものだ、一々真面目に取り合ってられないからなあ。
「で、でもぉ真姫、」
「本当に暴言なんて受けたのですか、天女サマ?何と言われたかお聞かせ願えますかねえ?」
ニタ、と笑みを浮かべれば、天女は顔を引き攣らせた。
「石田殿!よもや真姫殿が嘘を付いたと仰るおつもりか!!」
「何?暴言の次は騙り呼ばわり?豊臣って躾のなってないヤツばっかりなんだね?」
「そーゆう言い方はちょっとないんじゃないかい?」
「では、どなたかそれを聞いておられたのか?」
俺の一言に騒いでいた武将共はぐ、と言葉に詰まる。
「…真姫がそうと言っておる。真実に決まっておろう」
それは聞いていないと言っているも同然の言葉だ。
更に言い募ろうとする奴等を
「天女様は」
少し声を張り、押し止める。
「気安い口調に慣れていらっしゃる故、」
口の利き方がなってねえ、その意味を多分に含ませた言葉だったがこいつ等は気付きもしねえだろう。
「畏まった口調が冷たく聞こえたのかも知れませんね。しかしこれも身分差が在ればこそ、ご容赦くだされ」
俺が慇懃に言えば奴等は不承不承納得したようであった。
まあ天女は納得していないようではあるが。

(12/29)
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