それは、嵐の予感・弐

「北条が」

半兵衛様が一声出すだけで、その場は不気味な程に静まり返った。
「同盟を破れば、天女が止めようが政宗君達が必ず挙兵する。そうさせる
誰かの息を呑む音がする。
「そしてその裏で「北条は会談の席で武力行使を受け不利な同盟を組まざるを得なかった」と噂を流しておく」
「同盟を破棄する為の正当な理由って事だな。人心をこちらへ向ける為に…天女というヤツが同盟で圧力を掛けていたとすれば上はともかく下のヤツらは動揺するだろうな、軍として足並みが揃ってねぇのは致命的だ」
官兵衛殿は更に続けた。
「そして近隣からの助力は得られ難くなる、と…相変わらずのえげつない手だな、半兵衛。小生は気に入ったぜ」
官兵衛殿はニヤッと半兵衛様に笑い掛け、半兵衛様はそれにツンと外方を向いて返した。
「しかし天女と北条の策という事も有り得ますよ…」
「あの老人にとっての切り札とも言える手の内を曝してきたとしたら、少しは信用に足るとは思わないかい?」
行長殿の言葉に話しと外れた問い掛けをする半兵衛様。
その場に居た殆どの者は戸惑い、多分に漏れず
「は?」
彼も困惑していた。
「そこの忍君…風魔小太郎君と言うらしいね」
「伝説の!?」
風魔の名に場が大きくどよめいた。かく言う俺は驚き過ぎて言葉も無い。
「しかし騙りという事も有りますでしょう…」
尚食い下がる行長殿に半兵衛様は一つ頷いてみせる。
「そうだね。でもね別にそれは大した問題じゃない。これが彼らの策なら僕らがそれを利用するまでだ」
半兵衛様は本気だ、でかい戦になるぞ。
「悪いけれど北条には餌になってもらうよ」
半兵衛様の目に冷徹な光が宿る。
「もとより氏政公は承知の上のようだけれどね」
それを聞いていた忍は何を発することも無く、ただ微動だにせずそこに在った。

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