「雨」

焼かれた村に涙雨が降る。
誰かを慰めるために、ただ静かに降る。

ああこれは夢だ、あの日の…夢だ。

「  ?」
俺は遠くに見える男にそっと声を掛けた。
音の無い村に、それはよく響いた。
「俺も間に合わなかった。…気を病むな」
「だが、」
近付けば、もう一人、黒い立ち姿の男が居て何かを囲んで話しているのが見て取れた。
嫌な予感に俺は足を速めた。
男たちの間に横たえられた何かは、骸だった。
肩を斬られ、腹を焼かれ、頸の折られた、血と泥に塗れた無残な骸。
そしてその骸は、俺もよく知る女だった。
「  っ!?」
駆け寄った俺に黒い男が
「…前田の」
ぽつりと呟いた。
「慶次、」
俯く男の口から俺の名が呼ばれた。
その顔は陰に塗られ、悲しんでいるのか怒っているのか分からなかった。
「一体何でこんなことに!誰が  をっ!」
「我が  を殺した」
男は静かにそう告げた。
「嘘、だろ。おまえが  を…?」
信じられず呆然と呟いた俺。
雨の音が煩わしく感じた。
「っ我が!…  を殺した」
そう言い捨てて去る男に
「何で、何でなんだよ…秀吉ィ!!」
俺の慟哭は届かなかった。
ただ雨ばかりが悲しみと共に降り注ぐのだった。

「  は幸せだった。有り難う…すまない、  殿」


「慶次?こぉんなトコで寝てたらカゼ引いちゃうんだからねっ」
開け放した障子からひんやりした雨の空気が流れてくる。
「…真姫?ああ、ありがとうなっ」
にこにこと笑顔の真姫を好きなはずなのに、何故だか今は一緒にいたくなかった。
真姫を前に上の空で俺は考える。
夢の最後に言ったあの男。
なあ、あんたは一体誰なんだ?

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