それは、嵐の予感・壱

朝議の場に唐突に殺伐とした空気が流れる。
迂闊に攻撃出来ない程に秀吉様近く佇む忍に俺達は唯黙って歯噛みをするしかない。
忍は懐から何かを出し、秀吉様に突きつけた。
「秀吉様!!」
忍に斬りかかろうとするみつを押し留めたのは
「みつ、刀を収めよ」
秀吉様本人であった。
「秀吉様!?」
「秀吉?」
よく見れば忍が持っているのは一通の手紙であった。
「ふむ、北条から同盟の打診だ。見よ、半兵衛」
半兵衛様は文にサッと目を通すと一つ頷く。
「……成る程」
北条から…同盟?
あまりに接点の無い相手に、場には戸惑いが生まれる。
「半兵衛、どう思う」
「そうだな…このまま静観しているのも良いけれど、動くなら今が好機なのは確か」
「つまりは…」
「北条と手を組み、天女諸共彼らを討つ。そうすれば天下を手に入れたも同然」
半兵衛様の言葉に俺達は一様に固唾をのんだ。
「北条と組まねえで、今ここで奴等を討てば良いのでは?」
清正殿が憮然と言うが、この場合は武断派で血の気が多い彼奴の意見は良くない。
「加藤殿よ、それは下策よ」
吉継に窘められ不満気な顔をする清正殿。
「!そうか、」
正則殿は思わずといった風に声を上げ、それに恥ずかしげに身動ぎした。
「気付いたようだね。そう今のままでは僕らには大義名分が無い、彼等を討つだけの理由が。首を捕るのは簡単だけれどそれでは後々、人心に影響がある。それでは困るんだ」
「しかし同盟を組んだ北条が攻められたとすれば…」
俺が言えば、その言葉を引き継いで
「義は僕らに有る」
半兵衛様が毅然と言った。

「しかし、そううまく北条を攻めるでしょうか?何と言っても戦を否定する「天女」ですよ?」
「そもそも北条は天女と同盟を組んでおりましょう」
「我らを嵌める策ということも…」
ざわざわと喧騒が波紋のように広がる。

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