「災い・弐」

…どうしたものか。
あの「知られている」という感覚を思い出し、知らず冷や汗が背を伝う。
天女はそれから五日程小田原城に滞在し、途中訪ねて来た前田慶次も連れて土佐へと旅立ったのだった。
その日、ワシの陰警護に就いていた忍に拠れば
「もしかしてまつながの」
と呟いていたらしい。
まつなが…とはやはり大和の松永弾正であろうか。
何故、松永の名が出る。
分からぬ…予想もつかぬ。
天女とは真、奇怪な存在よ。
然らば回想を終え、ワシは北条家ひいては民の為にも最良の手を打つ事としよう。
果たして、同盟を組んだまま静観するとすれば?
特に害が無いのならそれでも良かったじゃろう。
しかし、欲にぎらついた目を持つあの者は必ず滅びを生む。
実際、国主不在が長く続いている奥州は少なからず良くない動きも有るようじゃ。
これから何かがあった時に北条が相模が無事とは限らない。
だが、奴等と一戦交えるとして単独では勝てる見込みは無い。
何と言っても粒選りの婆娑羅者が揃っておるのじゃ。
ならばこちらも手を組むしかないか。
今川では心許無い、上杉の動きは読めぬ、徳川…徳川は…ううむ…
下手に話しを持ち掛けて虎若子や独眼竜の様に盲目になっている者が在れば命取り。
音に聞けば長曾我部や毛利も…らしい。
「風魔」
呼べば音も無く降り立つ影。
「甲斐に豊臣の使者が行った事があったのう。その者の天女に対する様子はどうじゃった」
問えば風魔は音の無い「声」で答える。
「(徹頭徹尾天女を懐疑の目で見ており、天女に傾倒した様子は一度も見せませんでした)」
「それならば豊臣には天女の異常な様は伝わっておるとみて良いか…ふうむ」
豊臣の勢力は新興ながらも近畿一円を統べる程に大きい。天女に対しても既に探りを入れている上に、絆されておらぬ。
「よし、」
ワシは急ぎ書を認めると
「風魔!秘密裏に豊臣と繋ぎを取るのじゃ!!」
「(御意)」
風魔を送り出したのじゃった。

(9/29)
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