「災い・壱」

ワシは一時小田原に滞在していた者どもの事を考え、一人頭を抱えた。

その日、我が城に押し掛けて来た者があった。
「天女の如月真姫でーす」
伊達政宗とその家臣片倉小十郎、真田幸村とその忍猿飛佐助、そして天女と名乗る少女。
「…ほう、天女とな」
その時ワシは、ああこれが噂の、その位の感想しか持たなかった。
「真姫たちと同盟を組んでください!」
その唐突な申し出に、ワシの眉間にはくっきりと皺が寄る。
控えさせている家臣の体も強張った。
「ふうむ…それで北条にとって益は何じゃ」
緊張状態の室内にワシの声は重苦しく響いた。
「利益とかぁそんな考えじゃダメ!」
それに反して天女の声は吹けば飛ぶような軽さだ。
「…つまりはワシらにとって利益になるものも無いのに同盟を組め、と」
随分と舐められたものじゃ。
「戦をなくすために必要なことなんです!人は話し合えば分かり合えるの…だからぁ真姫が話し合いで戦のない世界を作ってあげるのぉ」
何が話し合いか、天女の横に並ぶ虎若子と独眼竜は殺気立った目でワシを見る。
その目は、断れば分かっているな?とワシの運命を如実に語る。
圧を掛けられたワシには同盟を組むしか道はなかった。
「あ、そうだ!あとぉ真姫に風魔小太郎を護衛としてつけて欲しいなぁ」
「何、じゃと」
風魔一族の事は極秘中の極秘事項。雇い主が誰かも悟らせない徹底振りのはず。
現に若造二人は「なんと!あの伝説の!」「へぇ北条が隠し持ってやがったか」知っていた素振りは無い。若造らの従者はこちらも知っていた様子は無く、初めて知った事に警戒の色を強めた風の反応であった。
それを何故こんな小娘が知っている。
「…風魔なんぞ知らんのう」
「隠さなくてもいいんだよぉ?」
天女の目には苛立ち。
誤魔化しきらねばと、
「伝説の忍がおったら北条は衰退せずに栄光の只中じゃ!!ううっ…申し訳有りませんご先祖様ぁ…」
「そうだぜ真姫。ジイさんは伝説を雇える器じゃねえよ」
ワシがひょうげた素振りを見せれば独眼竜がそう言葉を添える。
それでもまだ疑惑の目を向けてきたが、その内に何事かを呟くと一人で納得したようじゃった。

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