それは、破滅への

頭を下げようと決めて三日、みつが紀伊より戻り二日。未だ顔を合わせていない。
如何にも出鼻を挫かれた気がする。
(…避けられている)
何とかせねばと思案をしていれば、
「キャアァッ!!」
何処ぞで悲鳴が聞こえた。
あの女、今度は一体何をしたんだ!
「いやっ汚いっ近よらないでっきたないっ!!」
声を頼りに駆けつければ、そこには天女(と武将共はもう一括りだ)と吉継の姿が在った。
女は蹲り「きたない、きたない」とそればかりを繰り返している。
女を囲み男達が口々に声を掛けているが、それは届いていない様であった。
「どうした吉継」
俺の言葉にゆるりと振り向いた吉継は目を伏せて自嘲気味に言う。
「…ナァニ、我のこの身を厭うておるだけ。何時もの事よ」
見れば吉継の腕の包帯が千切られ膿み傷が露わになっていた。
何時もの事と哂う吉継は、裏腹に大層傷付いている。
天女と自称する位ならそれらしく振舞ってみろ、この捻くれて底意地の悪い俺の大切な友を傷付けてくれるなよ。
「そのような不浄な者を真姫の目に晒すでない」
その言葉でもう駄目だった。頭に血の上った俺は毛利の胸倉に掴み掛かった。
「毛利…テメェ…殺してやるッ」
「愚かな男よ…出来ぬ事は口にするでない」
「試してみるかァ?」
腰に佩いた刀の鯉口を切れば、
「壱矢っ!止めやれ!」
「止めなよ石田さん!!」
殺気立つ奴等。
諫める様に吉継が腕を引き、前田のが情けなく眉を下げて俺を止める。
「貴様も本当は思っているのではないか?…業病なぞ穢らわしいと」
俺に掴まれ尚吐き捨てる毛利の一言一言に腸が煮えくり返る。
…ああ、怒りでおかしくなりそうだ!
「誰が思うかよ。今世で人殺しやって、来世でその業を雪ぐ覚悟は出来てんだよ。今更業病如きを厭うか、来世には俺もお前等も業病だ」
そんな些細な事を恐れて「人殺し」が出来るかよ。
「貴様その口を慎め!」
「そも、此処に真に清らな者が在るか?俺も「お前等」も穢れているだろうが」
ちら、と天女へと目線を向けたのが分かったのか、俺の言いたい言葉を理解した毛利はその目をますます鋭くさせる。
「その口を閉じよっ!!」
毛利の手が俺の喉を絞める。

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