それは、光明

幾重にも重なる雨垂れの音が辺りに響く。
雨がまた攫って逝くのかと、恐れる感情が膨らんだ。
…ああ違う、あれとみつは違うと言うに…。
「…はあ」
溜め息を吐く俺に、
「お、何だい?恋のお悩みかい?」
会話の糸口にでもするつもりだろうか、奴は軽い調子で言ってきた。
にこにこと笑いながら俺の肩を叩く。

「慶次はね恋の話しとかすっごく好きでね、それとね私と  の事も祝福してくれたの。大切な友達よ」

「…ははっ、お前は本当にそう言う話しが好きなんだな」
「え?」
そんな事を何時だったか聞いたな。
そうすんなりと思えた事に純粋に驚いた。
あの日以来、初めて穏やかな気持ちであの子の事を思い出すことが出来た。
「いや……。そうだな。聞いて、くれるか?」
俺はぼんやりとそれを口に出していた。
その言葉が意外だったのだろう、奴は目を丸くしこちらを見る。
「えーと…何だい?喧嘩でもした?」
「喧嘩…だったらまだ良かったのだがなあ。…大事に思うだけでは、駄目だったのか…?」
「石田さん…?」
「俺は…どうすれば…良かったんだろうな…」
禅問答のように答えの出ないそれは、堂々巡りをしながら難解さを増す。
痛む頭を押さえながら俺は顔を伏せた。
「あんたの事情はよく分かんねえけどさ、」
前田のは言葉を選びながらゆっくりと口にする。
「自分の気持ちを言葉にしたのかい?」
「言葉、に…?」
「言える内に言っとかないと…後悔、するぜ…?」
それは前田のが何かに対して後悔をしている様な、そんな口振りだった。
「…言葉に…か」
ああ、そうか。
俺は何もかもを押し付けるだけで、みつに…妻に何も言いはしなかったな。
そのくせうじうじと悩んで…情けない男だ。
「…若造に教えられるとはな」
ふ、と笑みが漏れた。
「遅くはねえかな」
「だあいじょーぶだって!当たって砕けろって言うだろ?」
「砕けたら駄目だろうが」
「あっ、そうだった、そうだった」
先ずは頭を下げよう。他はそれから考えよう。
「なあ!石田さんの恋の話し聞かせてよ!どんないい人なんだい?」
前田のはからりと、とてもよく似合う笑みを浮かべている。
「俺には勿体無え位の好い、女さ…」
一陣の薫風が吹いた、そんな爽やかな笑みであった。

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