それは、懊悩

普段通りに登城したものの半兵衛様に休むようにと押し切られた。
どうやら昨日俺が倒れた事を官兵衛殿に知らされていたらしい。
仕事は回されず、だからと言って屋敷に戻る事もせず俺は城の枯山水を眺めていた。
まあ…風流さの無い俺が見ても良さは分からず、「見て楽しむ」なんてのは当に諦めていたが。
俺は縁側で一人、ぼんやりと空を見上げる。
灰がかった雲に覆われた空は、雨を降らせそうで降らせない境界に在った。
「…はあ」
自分勝手だろうが…みつに逢いたくて堪らない。明日には戻るだろうか?
…それなのにどんな顔をして会えばいいのだろうか、どんな態度でいればいいのだろうか。
それが分からない。時間が空くとそればかりを考えてしまう。
俺は答えの出ないそれに一人頭を悩ませていた。
「なあ、あんた」
どれ位そうしていたのだろうか。
「…前田の。まだ居たのか」
派手な形をした傾奇者、前田の風来坊がやけに神妙な顔でやって来た。
「少し、いいかい?」
「…ああ」
断るのも面倒で適当に頷くと、前田のは俺の横にどかりと胡坐を掻いた。
しばらくはあー、だのうー、だの唸りながら言葉を探しているようだったが一つ膝を打つと俺に向き直り言う。
「あんたは何で真姫を嫌うんだい?」
何を言い出すかと思えば…。
横目で様子を伺えば至極真面目腐った顔で俺の返答を待っている。
この男には似合わない顔だ、そう思った。
「さあな」
「真姫は天女で、器量良しで、気立ても良くて…何故嫌うんだ?」
必死に言い繕う前田は、しかし何所となく別の事を考えている…そんな気がした。
何となく、こいつが言いたい事は別の事じゃねえのか?とそう思った。
「……前田の…テメェが聞きてえ事は本当にそれか?」
顔を見て問えば、前田のは目を見開いて「いや……違う」と力無く言った。
「なあ」
真っ直ぐな目で見てくる前田のは確信を持って聞いてくる。
「…あんた、ねねの知り合いだろ?」
「…さあな」
肯定も否定も面倒臭く、俺は再び空へ目を向けた。
まともに答える気の無い俺に奴は立ち去るかと思ったが、前田のは肩を竦めると同じ様に空へと視線をやった。
じっと雲を睨んでいれば、それはぽつりと耐え切れぬとばかりに雫を落としはじめた。

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