疾風剛毅(2/2)

それが何故こうなったのであろうか。
「そこで儂は槍を振りかざし、」
「いやだからさぁ、ジイさんそれはさっきも聞いたから、ね?なぁーんでここに忍び込んだのかをサ」
解せぬ。
己は攻められ落とされた小田原城から氏政様を連れて逃げていた筈だったのだ。
それが一瞬。瞬き一回分、それだけで辺りの景色が変化していた。
何処かで見た事在る様な…そう、遥か昔の風魔小太郎になる前に紙の向こう側に見た世界。海と冒険に満ちた世界が己の目の前には広がっていた。
もう一度(心の中で)言わせてもらおうか、解せぬ。
「我が北条の栄光を…、………!……!!」
「…聞いちゃいねぇな」
老人が、我が主が、氏政様が得々と語る北条栄光物語を聞かされているのは洋装…白いスーツ…を着た男。
へらへらとした笑みを貼り付け氏政様に相槌を打っているが、この男は強者独特の雰囲気を持っているので油断ならない。
そして己の記憶が正しければ(なんせ何十年も前だからうろ覚えだ)ここは、立派な天守を持つこの建物は確か海軍の本拠地ではなかったろうか。
ふむ、そうなるとこの男は軍に属する者か。…どうしたものか。
「アンタなら少しは話が通じそうだ。…さて、何の目的だ…吐いてもらうぜ。海軍本部に忍び込んだんだよっぽどの理由があんだろうな」
「………」
「なーんてな、そう簡単にゃ口を割らねぇか。それなら力ずくで行かせてもらうとするか」
氏政様も居るし、出来る事なら穏便に……というのは無理そうだな。残念だ。
それにしてもこの細長い男、妙に癪に障ると思ったら…そうか、真田忍軍の長・猿飛佐助に似ているのか。声とか話し方とかが。
力ずくで…と言うのならば己とて応戦するまで。背中の対刀へと手を掛ける、とその時。
「こりゃああ!若造がぁっ!」
「うおっ」
「風魔には手出しさせんぞいっ!」
割って入ったのは氏政様。
北条家氷結奥義を放ち、壁代わりか己と男の間に氷塊を作り出す。
…。無茶はしないで欲しいのだが。
ぜいぜいと息を吐く氏政様の元へと移動して、その背を摩る。
言っては何だが己の方が強いのだがら、こういった輩を相手取るのは任せて欲しい。
そんな思いを込めながら骨すら浮く背を摩り続けた。
「こりゃ…氷…?悪魔の実の…?だがヒエヒエの実は俺が…」
氏政様の婆娑羅の力が作り出した氷柱。
それをじっと睨み付ける男の雰囲気が変わった。
先程までは何処か余裕を纏っていた男が今はどうだ。警戒を露にして己と氏政様へと相対する。
こいつも何やら特異な力を持っているのだろう。ぴしりぴしりと音を立てて空気中の水分が凝結していく。戦闘は避けられないらしい。
ああ、
「どうやら聞かなきゃならねぇことが増えたようだな」
全く面倒だ。

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