熱病(2/2)

そうしていても如何にもならぬ時が、年にひとたびふたたび来る。
人の熱がこの冷たい鱗に欲しくて堪らなく切なくなる。
然れど遊び女を買う訳にも行かず。
唯只管に苦しい。息が出来ぬ。まるで陸に上げられた魚の様よ。
こんな時は閉め切った暗い昏い部屋に閉じ篭り身を丸めておくが一番、
「吉継」
「っひ、」
ソウ思うていたのだが。
布越しにも分かる熱い掌に腕を取られ思いもがけず上擦った声が転がり出た。
掴む指はしなやかに長く、それでいて男らしく骨張っている。
「返事が無かったので勝手に入らせてもらったぞ」
「ナニ、ユエ…」
ナニユエこの男が居るのかと。
選りにも選って今この一時に傍らに侍るのか。
男はくっきりと濃い眉に憂慮を乗せて我を見る。
腕を引けば戒めは易易と解ける。焔に舐られたかの如く熱を孕みはじめていた。
「何、丸一昼夜飲まず食わずで篭もりきりと聞いた故にな。中で倒れているのではと思ったが……ああ、顔色が悪いな」
「ソウ、カ」
「何も食わぬでは体も持つまい。せめて薬湯でも、」
「イらぬ」
「……そうか」
がっしりと太い首の中で喉仏が上下する様はひどく扇情的だ。
全身を這い回る痛痒にも似た疼きが我慢ならぬ。
気が狂いそうになる。
否。
狂ったのやもしれぬ。
ユエに。
この苦悶より遁れる為、今暫しぬしを利用させてくれやれ。
「…、け」
「すまぬな。具合を悪くしておるのに邪魔を…………今何と。よく聞こえ、」
「我を、抱けと、言うた」
「は……吉、ぅ、んっ」
「んむ、っふ、ぅ、んんっん、ふっ、」
歯と歯がぶつかるのも構わずに噛み付く様口を吸う。
男が驚きに僅か身を退いて、逃さぬと圧し掛かってやると観念したかその鍛え上げられた太い腕で我を抱き留めた。
身を預けた胸板は硬く、厚く、大きく、熱く……雄を強く感じる。
いっそ軽蔑の顔で突き放せばよいものを。
後ろ頭を押さえ付けられたかと思えば男は己から舌を我のものへと絡ませる。
ぬたぬたと武奈伎の様に蠢きぬめり、どちらのものとも知れぬ唾が溢れて汚す。
膝で探れば熱いモノに当たった。ソレを押さえ付ける様に足を動かせば黒の双眸が苦しげに細まり、塞いだままの口から互いの熱い息が零れた。
帯が緩まり、合わせが暴かれる。
まさぐる手が包帯を剥いていくが触れる異形に気付かぬ筈もない。
一瞬だけ躊躇いを見せた手は鱗を逆撫でながら滑り、虐められるのを今かと待ち侘びていた突起を過たず潰した。
そのままぐにぐにと抓られて、
「っひ、ぁ……ゃああっ」
痛みと呼ぶには弱い刺激が頭を痺れさせていく。
この房事の果てにどの様な言葉で拒絶され友を喪うのだろうか。
眦から流れ落ちる雫の意味など知らぬ。知りたくもなく。
せめて今だけはこの熱に溺れていたい。

剥がれた鱗の奏でる音は高く澄んでいた。

(大谷吉継は皮膚が徐々に鱗に変わってゆく病気です。進行すると異常に性欲が強くなります。雪解けの水が薬になります。)

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