熱病(1/2)

はじめて気付いたのは元服を迎え名を改めた頃であったように思う。
腕の内側にぽつりとそれはあった。
小指の爪程の大きさで赤味がかった白色をしていた。
触れるとナニユエか真芯が疼く様な心地がし、恐ろしくなって我はそれを引き千切る。
ぶつり、と音がしてそれは思いの外容易く抜けた。痛みもない。
それは歪に円く、水晶の欠片の様に硬かった。
鱗だった。
しばらく何も無く忘れ掛けていた頃である。
見ると二枚生えていた。
ぶつ、
ぶつ、
またしばらく、次に気付くと四枚有った。
ぶちぶちぶちぶつ。
それを何度か繰り返していると腕には隙間無くびっちりと鱗が輝いていた。
その頃になると疼きは耐えられぬ程激しくなっていた。
疼きを誤魔化さんと、或る日肌を抓ってみた。
箍が外れた。
鱗を撫で回し、掻き毟り、舌を這わせ得る快楽は凡そ正気の沙汰とは呼べぬ頽廃したもので後ろ暗く心地好かった。
そうこうしていると摩羅に一度も触れぬ内に吐精した。
初めて吐き出した青臭い白濁を泣きながら懐紙で拭う。
鱗の色が濃くなっている様な気がした。
疼きは躰の奥に鳴りを潜めていた。

物の本に拠ると雪の解けたるものが効くと云う。
試せば成る程確かによく効く。
じりじりと焦がす熱が冷めた。
だが、膚は変わらず魚のままであった。

春先は良い。雪解けがここらでも容易に手に入れられる。
あまり長く汲み置いておけるものでもなく、それが尽きた夏の盛りに早秋は不死の山の金明水を取りに行かせている。薬師岳とは良い名よナ。
しかしそれは十分な量とはならず日差しばかりではない熱が我を悩ませた。
「……、あつい」
冬が、雪が、待ち遠しい。

十年を疾うに過ぎ、今やすっかりと紅色の鱗に覆い尽くされてしまった。
マトモなのは目の周りのやわらかなところと…………マァ一部分しか残されていない。
奇異なる見目を隠す為、何より着物が擦れるのを防ぐ為、きつくきつく晒木綿を巻き付ける。身動きが取れぬ位で丁度良い。
そして燻るものから目を逸らす。
それから、水。
だが近頃効き目が薄れてきた気がする。時に熱に耐え切れず自身を慰めることもある。
包帯を解くだけの微かな衣擦れをすら悦びに変え雄が屹立してしまう。
躰が震える度、ちりちりきらきら硬質な音を立てて煩わしい。
嬌声を漏らすまいと腕を噛み、その痛みは直ぐ様快楽に変わる。
幾度果てても昂ぶりは治まらず慰めても慰めても苦しい。
鈴口を指の腹で潰せば色の薄い精をぺとりと吐き出した。
浅ましい獣の如く、口からだらしなく涎を垂らしながら快楽を貪る様はヒドク惨めだ。
止まぬ疼きに指を後孔へと這わせた。

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