こころ

なにもみえない
なにもきこえない

いちからひゃくまでゆっくりかぞえて
それがおわればまたはじめから
ただ じっと しずかに
いきをひそめて
いち にい さん

なにもみない なにもきかない

なにも、

「こんにちは、闇色さん」

…なにも
じわりとくちをひらくうつろ
さかさにながれおちるたきのように くろいひかりがたちのぼる
まぶしくて、くらくて めがくらむ

きづいたらおんながめのまえにいた
やみをまとったうつくしいおんな

「市が蝶々にあわせてあげる」

そのこえはひどくあざやかにみみにとどいた
ひさしぶりのおとが

「ちょう、ちょ う…」

くちからこぼれおちる

「ええ、うつくしい紅いはねの蝶々」

あかい、はねの そんなものがいるとしたら
ああ
それはきっととてもうつくしいのだろう
きっとそれは、とてもいとおしい

「闇色さん…蝶々があなたを心配しているわ、市もあなた心配。だから」

しんぱい だなんて
こんなわたしをしんぱいするものなど

だれも

「市が蝶々に逢わせてあげる。市はそのためにきたの」
「だめ、だ…こんな    わたしが……」

あついみずがながれて、ほほをつたう
くるしい
つらい
また みみをふさごう めをつぶろう
もう、なにも

「あなたはうつくしい闇色のままだわ」

おんながそのみずをしろいてでぬぐってうつくしくほほえむ
そしてわたしは

(6/9)
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