水の中を時間をかけて沈んでいく気分がした。息は出来ないのに、何故か苦しい訳でもなかった。見上げれば青のような緑のような、深い色が水面できらきらと輝いていた。
ふと目覚めるとそこには夢で見た水面の輝き。ただ夢と同じ平面的なものではない球体のそれは眠っている我を見つめていたらしかった。
「お目覚めか?」
「…」
かけられた言葉に答えることもせず眩しくて目を細める。カーテンの隙間から日の光が射してベッドの上に白く線を作っていた。
「今何時、」
「昼前。茶を飲むのに丁度いい時間だな」
彼は我の横でこちらを見下ろしていた。上半身を起こしたアーサーの腰から下はシーツで覆い隠されている。衣服を身につけていないのは昨晩の行為の後だからだ。そして我も同じ格好で、違うのは全身シーツにくるまっていることくらい。何となく気だるい訳も、もう分かりきったことだ。
こうした寝起きの心地よい微睡みが我は嫌いだった。昔のように愛しい兄弟たちと迎える朝は好きだったけれど、今はこうして違う意味で一緒に朝を迎える奴がいて。初めの頃はそれが嫌で眠らないことさえあった。
身体がじわじわと沈んでいく。時折、浮き上がって水面が頬を行き来する感覚。それがたまらなく嫌だったはずなのに、いつからだろうか。それが嫌いじゃなくなったのは。
気付くとアーサーの体が我に覆い被さっていて、強引に唇を奪われた。昔のことに想いを馳せている我が気に入らなかったのだろう。再び二人の体がシーツの中に沈んだ。
だんだんと二人で迎える朝が好きになっていく、そういう自分が嫌いで仕方のない時期も確かにあった。そんな負の感情も何もかも感じずに済むような、深い感情の底へと我はとうに堕ちたのだ。
(浮いて沈んで、この想いを繰り返す)