見知らぬ可愛い女の子の隣に笑顔の志摩が居たからって、女の子が何度も志摩にボディタッチをしたからって、ボディタッチをされた志摩がこの上ない位だらしない顔になったからって、それを見たわたしがどれだけイラついたからって、わたしは志摩を殴れない。生憎わたしは志摩の彼女でも何でもないからだ。


まだ五月だと言うのに太陽が頑張っちゃっているおかげで教室には蒸し暑い空気が籠もっている。解放された窓から入ってくる風も温風だ。そしてこの蒸し暑い中、廊下でいちゃつく暑苦しい二人を盗み見しながらわたしは教室で頬杖をついていた。志摩は相変わらずだらしないデレデレ顔、一方恐らく志摩にナンパされたであろう女の子も、まんざらではなさそうだった。まったく、あんな女好きバカアホエロ魔神のどこがいいんだ。趣味の悪い女。
そして頭の中で女に吐き捨てた暴言は、そっくりそのままわたしに返ってくる。なぜならわたしもその女好きバカアホエロ魔神に惚れてしまった趣味の悪い女なのだから。


「はーあ、モテる男は大変ですわぁ。」


女の子に手を振って志摩がわたしの隣の席に帰ってきた。まるで独り言のように呟かれた志摩の発言は、完全にわたしに向けられていた。腹が立つからシカトしようかとも考えたが、あまりにも志摩がこちらをチラ見して返事を仰いでくるから仕方なしに嫌みをあげた。


「自分がナンパしといて、調子のるなー。」
「ちゃうで!あの子の方から声かけてきはったんや。」
「ワオ、おめでとー志摩くんの時代がキタネ。」
「せやろー?」


嫌みも通じないバカである。志摩は人の気も知らずに先ほどの女の子の名前、クラス、部活などの個人情報をべらべら話し出し、挙げ句の果てには交換したメールアドレスを誇らしげに見せびらかしてきた。イラッ。このバカ、ほんともやっとする。


「…あほらし。」
「何がや。さっきから、何怒ってるん。」
「怒る…って言うか、」
「なーんーやーのー。」
「志摩が女の子ときゃっきゃしてる時に、志摩を殴れる唯一の存在になりたいなー、と。」


バカな志摩にこの遠まわしな告白が伝わるか否か。それの答えはみるみる顔が赤く染まっていく志摩にあり。


「…それってジェラシー?」
「…愛だよ。」




ジェラシーと呼ばないで、愛だと言って
  

(言葉の綾ですか) 



0509
りょうおもいでバンザーイ





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