首の細い女だと思ったのが最初であった。細い首の薄い肌の表面には二つの赤が誇らしげに咲き誇っていた。制服の襟から僅かに覗く赤、そして正面から見れば誰もが気付くであろう赤、その二つ。純情で清潔そうな女の不純な行為を頭で想像した瞬間、顔がふつふつと火照り、沢北はその女に対し些か欲情したのであった。
その女と今では情交をする関係であるから、本当に人生とは何が起こるか分からない。
「栄治、こっちきてよ。」
「はい。」
「触って。」
「…駄目ですよ。」
「駄目じゃない。わたしが良いと言ったら良いの。」
「俺様。」
「お姫様。」
「…先輩、」
半分のボタンが外されたブラウスから控えめにチラツく黒いブラジャーは、決して大人びてはいない女の顔と、甚だギャップで、それが沢北の目には一段と淫靡に映る。否定の言葉とは対照的に、沢北は自らの体に孕む色欲と言う熱を覚えた。女の婀娜な身体は沢北を挑発的に誘惑し、いとも簡単に女の思い通りになるのであった。
女の柔らかい胸に顔を埋め、愛撫を始める沢北に、女は少しも声を乱さずにぼそりと呟く。
「わたしの駄目な所を三つ言って。」
「駄目な所?」
「わたしの欠点、短所、三つ。」
「三つじゃ足りないですよ、先輩。」
「…いいから。」
女の突拍子の無い質問の答えは、沢北の脳内に一瞬にして何十個も書き出されたが、その中からたった三個選ぶのはなかなか苦渋であった。加えて、女の甘い匂いや柔らかい感触の誘惑の中、愛撫に集中していた沢北に他の事を考える余裕など無く、束の間黙り込んだ沢北に、女は苛立の色を見せ、沢北の耳を甘噛みした。
「ァいたっ。」
「早く。栄治。」
「そーだなあ。…まーまずは我が侭な所、ですかね。自己中心的で他人の事を考えない。」
「わたし我が侭じゃないよ。」
「で、次は、後先考えない所。」
「…色々考えてるよ。…何か他人のことも考えずに後先も考えずに、わたし何にも考えてない馬鹿みたいじゃない。」
「馬鹿だなんて言っていません。」
そう聞こえたの、と女はあからさまに機嫌を損ね、口を尖らせた。自分が言えと言ったのに、と沢北は苦笑いをし、女の機嫌をとろうと頬に小さなキスを落とす。
「…あと一つは。栄治。」
「人を愛せない所ですね。特定の人間を愛せない。…そして愛されない。誰からも。」
「ふふ、……そうね。わたし、可哀想。」
「先輩。」
「可哀想なわたしに、あなたの愛を恵んでよ。」
救恤/Liberalitas
困っている人々を救い、めぐむこと。
※「人間論」様に提出させていただきます!
お題とずれているような気もしますが気にしません!
とても楽しかったです!ありがとうございました!^^
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