※しずおがきつえんしちゃう 日陰で昼寝をしている男の髪を温い風が揺らす。近づいてみると平和島だった。寝ている平和島の近くにしゃがみ、顔に影を落とすと眉間にわずかに皺が刻まれた。脱色されて傷んだ金色は水色の空に溶けてしまいそうだ。きれい。だけど、きらい。平和島の金髪が嫌いだ。別に好きなタイプが黒髪な訳ではない。染色された髪が嫌いな訳でもない。だけど、平和島は嫌だ。ほかのひとはいいけれど、へいわじまのきんいろのかみは、いや。 「にあってない」 「金髪」 「急にかっこつけちゃって」 「煙草も」 「ぜんぶ」 「平和島には」 「似合わない。」 瞼を閉じたままの平和島に、ひたすら思っている言の葉を浴びせた。平和島はすうすうと規則正しい寝息を立てて無防備にわたしに寝顔を見せている。無防備な平和島を見ていると、自然と今まで溜まっていた事がするすると口から滑り出た。意識のある平和島には直接言えない言葉、だからせめて寝てる時にくらい、わたしの本音を聞いて頂戴。 「ねえ」 「急に大人にならないでよ」 「知らない人みたいにならないで」 「平和島」 平和島とは、ランドセル背負う前からの付き合いだった。友達が一人もいなかった平和島の一番近くにいたのは間違いなくわたしだった。親友なんて関係ではないけれど、「唯一の友達」と言うポジションにはいた自信があるしそうであって欲しいと思う。皆は平和島の事を怖いと言って避けたけど、わたしは平和島の事を怖いなんて思った事は無い。昔も今も多分これからもずっと。なんやかんやで小学校中学校とそれなりに仲良くしていて、偶然高校も一緒だった。嬉しかった。高校に入ると同時に平和島は髪を染め、煙草も始めた。平和島のせいじゃないけど喧嘩の量も中学の頃に比べて十倍以上に増えた。そして、 少しだけ、わたしを避けるようになった。 「変わったね」 「平和島」 「わたし、も」 「変わっちゃった」 「…昔にかえりたい」 「なー」 あの頃は楽しかった、と言う事が今更分かった。いつも平和島が近くにいて、わらって、時々喧嘩して、だけど平和島はおんなのこは殴らなくて、でもわたしは渾身の力で平和島の背中を殴って。あーあ。変わった。こんなに背が伸びて、昔は私の方が高かった。声も、低くなって。体もごつごつして。わたしは違う友達とつるんで、平和島の周りからは、更に人が減って、 「すき、だった」 「かも」 わたしが思いも寄らない事を口にするのと、チャイムが鳴るのは同時だった。そして平和島が目を開けるのも、ほぼ同時だった。平和島は驚いた顔一つせずに、寝転んだまま、わたしの目を見た。 「俺に近寄んな」 「もう」 「二度と」 お前に危害が及ぶといけねーから。 昔から平和島は肝心な所をわたしに伝えない。伝えられない、馬鹿で不器用な男なのだ。わたしを突き放したつもりの平和島は再び瞼を閉じ、わたしから意識を離して行く。また、わたしから離れて行くのだ、この男は。手を伸ばせば届く距離にいるのに、なんでこんなに遠く感じるのだろう。ああもう、なみだ、でそう 答えなんてきっと何処にもない 0627 |