何となく視線を感じたので顔を上げれば熱をたぎらせる暑苦しい二つの眼が折原を射抜いていた。電車の正面の席に座っている見ず知らずの女が、ただただ折原を見ているのだ。じりじりと集中的に向けられた女の双眼は、いつも冷静な折原の頭をやや混乱させた。派手な容姿から、他人に視線を向けられることには慣れているのだが、理由も分からずこんなに直視されることなど初めてなのだ。

もしかしてこの女は俺のことが好きなのではないか、という自分勝手で乙女チックな思考回路を生憎折原は持ち合わせていない。そして明らかに女の視線に好意は孕まれておらず、折原に何かを訴えかけているような鋭い目をしていた。

第三者から見れば何とも気味の悪い光景だろう、と折原は心の中で苦笑した。電車の中で向かい合った二人の男女が瞬きもそこそこに互いの顔をくり貫くほどに見つめ合っているのだから。少なくとも折原が第三者としてその奇妙な光景に気付いたなら、まず興味を持ち、観察をするだろう。

美しい女だ、と折原は思う。見た目こそ普通の女の子と言う感じなのだが、オーラが美しかった。折原に向けられた二つの瞳もまた美しく、漆黒の硝子玉の様に澄みきっていた。瞳に吸い込まれそうだ、などと考えるようなロマンチストでは無い折原だが、この女の瞳になら吸い込まれても良いと言う人間はいるだろうと思った。

電車が止まり、扉が開く。絡み合っていた視線は折原が立ち上がることで契れた。面白い女だったな、と名残惜しく思いながら電車を降りる折原の足は、あの、と言う澄んだ声でぴたりと止まる。振り返ると、先程の女が立っていた。真っ直ぐに折原を見据え、女は少し言いにくそうに顔を赤らめた。その反応に何故か高鳴る折原の期待。再び女が口を開く。



「 社 会 の 窓 開 い て ま す よ 」




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