昨日財前が見知らぬ女の子と一緒に下校していたのを目撃した。茶色くて長い髪の毛の似合う、可愛らしい女の子。自転車通学の財前は、女の子に合わせて自転車を押しながら道路側を歩いていた。財前に彼女がいたなんて聞いていないし、きっと部活内の誰も知らない筈だ。それにクラスに女の子の友達がいるようなタイプでは無いし、もし友達だとしても二人っきりで帰る様な事はしないだろう。じゃあれは誰。財前が昨日優しく微笑みかけていたあの女の子は一体誰?なの。わたしは、財前がテニス部に入ってからずっとあいつばかり見て来た。あのぶっきらぼーで生意気な年下の何に惹かれたのは分からないけれど兎に角ずっと財前の事が好きだった。すっごい恋してた。無駄に顔の良い財前は一部の女の子からめちゃくちゃもてていたけど、誰とも付き合わなかったので心のどこかで安心していた。叶わない恋だけど傷つく事は無いって。なのに、なのによ。財前が見た事無いくらい優しく微笑みかけていたあの女の子は、誰?


「はよーございます」

「うわ財前」

「うわって何すか。失礼な人や」

「えらい早いやん。珍しいなあ思て」

「うっさいっすわ」


うわうわ何で今日に限って早いのかこの男は。何これ気まずい。わたしが一方的に意識しているだけだけど。そんなわたしとは裏腹に、ゆるくあくびをする財前の耳には相変わらず六色のピアスがきらり。…いや、おかしい、財前のピアスは五色な筈では?


「財前、ピアス」

「ああ、これ。貰ったんすわ。きれーやろ」

「あ…うん。ええ色やね。似合うやん」

「…せやろ」


だらしなく財前の口元が緩む。そんな顔財前には似合わない。そんなに嬉しそうに笑って、もしかして彼女からのプレゼント?ああ心臓いたい。


「財前、昨日女の子と一緒に帰ってたやろー」

「あー、見てたんか」

「あの可愛らしい女の子とどう言う関係なん?もしかして彼女とかー?」


どっきどっきばっくばっく。ああどうしよう聞いてしまった、もし彼女だったらどうしよう。きっとわたしは立ち直れない。どきどきばくばくいう心臓を必死に押さえたら代わりに涙が溢れそうになったけど頑張って堪えた。吹奏楽部の練習の音、もっと大きくなれ。そして財前の耳にわたしの心臓の音が聞こえないようにして。「先輩、あほちゃう?…あれ、姉貴や」「…ああ!…なんや、そうなんや。…おっ、おもんないわー」「ほんま迷惑な話や。先輩、ほんまあほや、おもろいわ」なんてベッタベタな展開は勿論おこらない。財前はめんどくさそうにため息をついて、控えめに頷いた。


「彼女っすわ」

「あ…そうなんや」

「見られとったんやなあ昨日…」

「女の子片っ端からふってた財前についに彼女がねー!」

「あいつは他の奴とは違うんすわ。…ほっとけんっていうか。危なっかしゅうて見とれんっていうか。俺が支えたらんと…って思って。…つうか何言わしてんすか」

「もー、わたしに惚気んな!生意気な後輩や」

「先輩、めんどくさいんで、謙也さんたちには黙っといてもらえます」

「勿論。謙也にばれたら面倒い事になるで」

「流石先輩や。頼んます」

「彼女泣かせんなよ」

「余計なお世話や、おせっかい」


財前がにやりと笑う。いつもだったらそれだけでめちゃくちゃ幸せな気分になれるのに何故か今日はその笑顔を見るのが辛い。何か本当に泣きそうになって来た。どろりどろりと心臓のあたりから黒いもやもやが溢れ出る。息すんのが辛い。苦しい。財前の耳で光る黒いピアスを引きちぎって飲み込んでしまいたい。


「んなら着替えてきます」

「おう!」



財前の彼女、爆発しろと本気で思ってしまったわたしは、嫉妬の固まりだ。醜い。醜い。わたしが爆発しろ








0417 悲恋…?わかんね^^






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