【幽くん、いつもテレビで幽くんの頑張る姿を見ています。相変わらずお仕事忙しそうですね。体調を崩していませんか?幽くんは、頑張りすぎる所があるので心配です。あまり無理をせずに、たまにはゆっくり休んでね。幽くんに、

会いたいです。】



だめ、だめだめ。こんな事書いたら幽くんを困らせてしまうから。クリアキーを7回押して、自分の気持ちを一文字ずつ消していく。幽くんにメールする事事態迷惑な行為なのに、困らせたりしちゃ駄目だ。会いたくて会いたくて堪らないけど、幽くんは忙しいんだから我慢しなくちゃ。

幽くんとは幼馴染みで、わたしの子供の頃からの長い長い片想いの相手だ。静雄と同い年のわたしは幽くんからしたら只のお姉さんみたいな存在だろうし、一生恋愛対象として見て貰えない事くらい、わかってる。実際幽くんは今、聖辺ルリちゃんと交際しているんだし。わたしは幽くんの恋人になりたいなんて図々しい事は思ってないけど、幽くんが有名人になってしまって、ますます遠くに行ってしまうようで、堪らない気持ちになる。

だからわたしは幽くんとの僅かな繋がりを確認するために、何ヵ月かに一回メールを送っている。幽くんにとったら迷惑かもしれないし、返事を返すのがめんどくさいかもしれないけれど、【ありがとう】という短いメールが返ってくるだけで、わたしは天にも昇る気持ちになるんだ。幽くんは知らないでしょ?わたしは幽くんからの同じ文章のメールを全て保護してるんだよ。



【これからもずっと、羽島幽平くんのファンです。】



送信ボタンの辺りを親指が彷徨く。いつもメールを送信するのに何十分も迷う自分がいい加減情けない。メールの文面を何度も読み返して、変な所無いかなあって確認して、文章消して、直して、また消して。

勇気を振り絞って送信ボタンを押そうとした寸前にインターホンが鳴った。今、夜の九時だけど、こんな遅くに誰だろう。ゆるりとドアを開けて、突然の訪問者にわたしは本当に、呼吸が止まった。だって、だって、



「名前さん」

「か、か、か、…幽くん…!」

「お久しぶりです。夜遅くにすみません」

「ど、どうして?」

「今この近くで撮影してて、だから名前さんに会いに来たんです」

「あ、そ…そうなんだ!」

「…顔見に来ただけなんだけど、元気そうで良かった」

「…元気だよ!幽くんも元気そうだね」

「おかげさまで」

「あっ、そ、そう言えばっ今度映画の、主演やるんだよね!おめでとう!絶対見に行くね!」

「ありがとう、名前さん」

「…ううん、楽しみにしてるねっ」

「うん…。あ…そろそろ、休憩終わるから行きますね」

「え、あ、…そっか。…撮影頑張ってね。わざわざありがとね」

「うん。あ、そうだ」

「…?」

「いつも、メールありがとう。名前さんからメール来るの、実は楽しみなんだ」




じゃあまた、そう言って幽くんは去っていった。幽くんがさらりと紡いだ言葉の爆弾が脳内で爆発の連鎖を起こし、頭がショートしてしまって、幽くんにさよならが言えなかった。わたしのメールを、楽しみにしてくれている?幽くんが、わたしなんかのメールを?嘘でしょ、と思ったけど幽くんが嘘をつくような人では無い事をわたしは知っている。わたしの自己満足で一方的に送りつけていた文字の塊が、少なからず幽くんの糧になっていたんだ。これは嬉しすぎる。

フリーズした脳が、また、と言う言葉を思い出し、ふと我に帰る。確かにめったに幽くんに会えないし、距離はけして近くはないけれど、わたしはまた幽くんに会える。繋がっている。その事実が堪らなく嬉しい。

わたし、やっぱり幽くんの事が好き。世界で一番幽くんを愛してる。

次に送るメールは、ちょっとだけわたしの我が儘な本心を入れた、メールにしてみようかな。ちょっとだけ幽くんを困らせてしまうかもしれないけれど、困る幽くんすらも愛おしいから。



【これからもずっと、平和島幽くんのファンです。】





三月二十九日

糖分高めを目指したはずが悲恋ちっくになってしまった謎







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