部屋の中の空気の色は薄汚れたピンク色。薄汚れている理由は静雄の精液の臭いとわたしの愛液の臭いが空気中に分散しているから。苦いような青臭いような独特の臭いは時間がたつと共に慣れて分からなくなり、すっかりわたしたちの脳に溶け込んでいる。もうどれくらいの時間が経過したか、どれくらいわたしと静雄は裸でベッドに溺れていたか。静雄の部屋には時計もテレビも無く、二人ともケータイの電源を切っていて、つまり時間を知る手段は全て断たれているので、今が何時何分なのかなんて全く分からない。忙しく確実に時間が流れる外の世界と、ゆるりと時間が止まったわたしと静雄だけの二人っきりの愛の密室はまるで別世界だ。最も、わたしは現在の外の世界の様子など知らないのだけれど、なんて静雄の気違いな愛情に溺れながら考えた。



「ん、そこきもちい」

「分かってるよ」

「ん、あ、」



唯一外の世界の様子を覗くこと出来る薄い窓ガラスは、暗幕のような分厚い黒色のカーテンに覆われている為、今が朝なのか夜なのかも分からない。わたしとは反対に、時間なんてまるで気にしていない様子の静雄は相変わらず乱暴すぎる愛情を存分にぶつけてくる。わたしはそれを全て吸収し、自らの快感に変換する。



「あ、いきそ」

「おう、俺も出そう」

「ん」



お互いに本日何度目かの絶頂に達すと同時に、とんでもない倦怠感と疲労感が生まれ、自然と力んでいた体の力が抜ける。わたしの上でだらりと力を抜いた静雄の体は、重力によって必然的に真下に落っこちて、静雄の体重が一気にわたしにかかってくる。重たくて圧迫されて呼吸が苦しいけど、その重さすらも愛しい。そんな事よりわたしの体がいい加減に限界かもしれない。腰が砕けそうだし掌に力が入らない。そんなわたしとは裏腹に、静雄は再びわたしに覆い被さってくる。



「あ、ちょっと。…今日何回目よ、」

「覚えてねえ」

「わたしもう動けないよ」

「俺はまだ動けるんだよ」

「お願い、勘弁して」

「……分かったよ」



静雄はため息をついて、珍しく素直にわたしから離れた。床に箱ごと投げ捨ててあった煙草に火をつけ、ベッドに座ったまま煙を吸い始める。静雄の口から吐き出された濁った煙は、部屋の空気を濁らせ、室内のピンク色を更に汚して行く。細いくせに程よい筋肉が付いている静雄の体は、たまらなくエロティックだと思う。大きい掌も、細くて長い指も、全てが魅力的で愛しい。わたしは静雄の煙草を吸う時の手つきが好き。

わたしはとても起き上がれなくて、煙草を吸う静雄のシルエットに見とれながら外の世界の事を思った。静雄がこの部屋に入って来てからどれくらい時間がたっただろう、どれだけ長い間愛しあっていたのだろう、次はいつ出て行ってしまうのだろう。



「今何時かなあ」

「分からねえ」

「今は昼?」

「深夜だな。夜中の二時くらいだろ」

「そっか。ねえ、今日って何月何日?」

「お前はそんな事知らなくて良いだろ…。そんな事お前には関係ねえだろうが」

「怒らないでよ。最近暖かいからね、もう春が来たのかなあって」

「……ああ、もう春だよ」



やっぱりね、最近暖かいから冬は終わったんだろうと思ってた。なんとなく空気が生温くなったし、静雄の服装も最近は薄着になっているし。



「もう桜は咲いてる?」

「ああ」

「そっか。お花見したいなあ」

「……あ?」

「どこかの公園で、」



ぱしん、と乾いた音がして、それが静雄に殴られたのだと分かったときには、右頬にもの凄い痛みが走りじんじん脈打って熱くなっていた。ああ、血の味。また顔に傷が出来ちゃったなあ、歯が折れちゃったかも。そう思ったけど静雄以外の人間に見られる訳ではないので別に構わない。痛みに耐えていると静雄がわたしの唇を塞ぐ。ざらざらした舌が口内に広がった血の味を絡めとり、尖った歯が唇を引っ掻き、わたしの舌がちぎれそうになるくらい噛み付く。ゆっくりと唇が離れたかと思うと、今度は思いっきり抱きしめられた。



「…う、」

「お前はこの部屋にだけいれば良いんだよ!外に出る必要なんてねえだろう!俺以外の人間に会うなんて…絶対に許さねえ…お前は…お前は、…一生此処で俺に飼われれば良いんだ…」

「…分かってるよ、静雄」

「お前は俺のもんだ」

「…うん。そうだよ。だから安心して、わたしはずっと静雄と一緒だから」

「逃げんなよ…絶対俺から離れんなよ…」

「うん、当たり前でしょう」



静雄は本当に心配性だなあ。重たい足枷がついたわたしの両足は静雄のおかげで骨折していて、歩ける筈なんて無いのに。立ち上がることも出来ないのに。静雄が仕事に行っている間にはドアに外側から鍵をかけられて、窓には鉄格子が並んでいて、脱出する方法なんて一つもないのに。

だけど、心の底から、静雄と一生ここに居たいなんて思っているわたしは多分きっと相当めちゃくちゃ静雄に溺れている。



「なあ、やっぱりお前がどこにも行かないように殺しておこうかな」




0320
ヤンデレ萌え





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