最後に外出したのはいつだっけ。ここ最近、二週間くらいずっと家の中でパソコンと睨めっこ状態が続いている。仕事、仕事、仕事。何が何だか分からなくなるくらい仕事ばっかりで、睡眠時間と入浴時間以外は殆どパソコンの前に座っているような気がする。食事は必要最低限しか摂っていないし、この三日間なんて一睡もしていないし、完全に昼夜逆転しているし、俺は日本で一番、不健康な生活を送っているんじゃないかな。多分これが限界って奴だな、と感じながらも、休養をとろうとしない俺は相当なドMか相当なイカれた人間なんだろう。



「折原、生きてる?」



残念ながら瀕死だよ、と心の中で呟きながら、俺の仕事部屋に入ってきた訪問者に対して、顔も上げずに返事を返す。



「……ああ、今日も来てくれたの」



訪問者の正体は俺の彼女で、俺の事を心配して毎日来てくれる。料理を作ったり、引きこもる俺の代わりに買い物に行ってくれたり、要は雑用のような仕事をこなしてくれている。それにしても、名前が玄関を開ける音に全く気付けなかったなんて俺は相当疲れてる。今の状態でシズちゃんに会ったら二秒で瞬殺されそうだ。



「わたし来なかったら折原餓死するからね」

「……そうだね」

「うわ、折原、クマやばいよ。昨日はちゃんと寝た?」

「……ああ、寝たよ」

「嘘つき」



溜め息をつく名前に渇いた笑いを返し、携帯電話を片手に、俺は休む間もなくキーボードを弾き続ける。そんな俺に名前はまた溜め息。



「折原、たまには休みなよ」

「うん」

「ここ最近ろくに寝てないでしょう」

「うん」

「このままじゃ、あんたホントに過労死するよ?取り敢えず休まなきゃ」

「うん」

「……ね、折原。聞いてる?」

「…うん」

「全然聞いてないじゃん……」

「…あーもう…五月蝿いなあ。分かってるってば………ちょっと黙ってよ…」



あ、やばい。言い過ぎた。流石にパソコンから目を離し、慌てて彼女を見る。もしかして泣かせちゃったかも、なんて思ったけど名前は俺にへらりと柔らかい笑顔を向けた。



「あっごめんごめん。折原疲れてるのにね」

「や、…俺こそごめん。八つ当たりした」

「別に。まあ取り敢えず休みなよ、ね」

「…そうしたいけど、俺にはそんな暇無いんだよね……」

「じゃあその暇を作れよ」

「はは、無茶言うなあ名前は…」



まあ確かに休養は必要だと思ってるんだけど、やっぱり中々そうは行かないんだよね。…でも、多少無理してでもたまには休まないとだよね…。名前だっていつも俺の為に色々してくれて疲れてるだろうに俺の心配をしてくれて、本当に優しいというか何と言うか。名前に支えられて俺は頑張れてるし、実際名前が食事の用意とかしてくれなかったら多分俺はとっくに死んでる。最近は名前が俺の為に色々してくれるのが普通っていうか当たり前みたいに思ってたけど、やっぱり名前は俺にとって本当に大きな存在だ。



「あのさ名前」

「何?」

「…いつもありがとう。感謝してるよ」

「……は?えっ何?きもっ!折原ついに頭パーンってなった!?わたしちょっと鳥肌立っちゃった!」

「酷いなあ。珍しく俺が素直になったって言うのにさ…」

「はいはい」



名前は呆れた様な声で俺の言葉を流すけど、名前の表情はどこか嬉しそうで、でもそれが俺にばれないように必死になっているのが可愛くて、自然と表情が緩んでしまう。



「……よし!一旦仕事終わり!じゃあ名前、鍋行こうよ」

「えっ?終わりって…」

「たまには息抜きも必要だからね」

「…そーよね!…ってかこの季節に鍋〜?」

「いいじゃん。二人でゆっくり鍋でもつつこうよ」

「…なんか折原と二人で外食なんて久しぶり…だから嬉しいかも」

「……そーだね。やっぱ名前の好きな物食べに行こうか」

「えっ、わたし選んでいーの?」

「勿論。何でも良いよ」

「…んーっとねー。………鍋、が食べたいかな」

「………流石名前。愛してる」









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