ぐらり

体育館の中が揺れた。「卒業生、起立」の声で一斉に卒業生が立ち上がり、「礼」の声で卒業生の頭が45度下がり、「着席」の声でまた体育館が揺れる。わたしもその中で一連の動作を繰り返す。暖かい春の陽気に包まれ、わたしたちは今日、高校生を卒業をする。隣のクラスの脇坂くんの超金髪だった髪の毛も真っ黒に、4組の向島さんの埴輪スタイルも今日は普通にスカートとソックス。久しぶりに向島さんのなま足を見た。スカート長くしたり黒染めしたり、何となく全体的に落ち着いた雰囲気の中、私たちのクラスの列に明らかに浮いている二人がいた。平和島と折原だ。平和島は相変わらずの金髪で自己主張、嫌でも目がいってしまう。平和島ってば普通でいたい目立ちたくないって言ってるくせに謎の金髪なんだよね。まあ良いけど。似合うし。わたしの隣に座っている折原は、見た目こそ浮いていない物の、ずーっと座りっぱなしで皆が立っている時でも一人だけ立とうとしない。もしかしたらこいつ寝てんのかも、と思ったけど先生が注意してない所からして、多分折原は「体調不良です」とか言って仮病使って一生に一回しか無い大切な大切な卒業式をさぼっているんだろう。わたしは折原が嫌いだ。わたしには絶対に好きになれない人間の条件が三つある。何事にもいい加減で手を抜く奴、知ったかぶる奴、人を見下す奴。その全てに完璧に当てはまる人間がわたしの隣に座っている男、折原臨也だ。相変わらずマイペースな折原を横目に、わたしは何となく体がだるい気がしたりしてる。さっきから顔が熱くて頭の中がぐわんぐわんして視界も少し揺れている。あ、また目眩、



「あんた熱あるんじゃないの」

「…は?」

「絶対あるでしょ」



右横から大嫌いな折原の声がした。しかもその内容がわたしを心配する様な物だったために思わず鳥肌。わたしは卒業式の最中に平気でわたしに話しかけて来た折原に苛立ちつつ、小さい声で返事をした。



「…熱なんか無いし」

「あんた自分の体調悪い事も分かんないんだ」

「…話しかけんな馬鹿」



ちょっと馬鹿は言い過ぎたかも、なんて黙ってしまった折原の顔をチラ見したら、いつも通りのむかつく笑みを浮かべていたので心配して損した。つうかこんな奴に話しかけられるのも嫌なのに何心配とかされてんの、わたしまじで終わってる。…それにしても本当に頭痛くなってきたな、…来賓の紹介とか良いからさ、もうさっさと終わってよ、ああ、なんか…ふら、つくよー



「だーから言ったのに」

「…は?」



ぐらり、またまた体育館が揺れる。あれ?違う、揺れてるのはわたし?違う、浮いてる?もう何、意味が分からないよ。なんか折原の顔が近くにあって、折原の手が腰に。ああ、もしかしてわたし折原にお姫様だっこしてもらってんのかもーだって女の子はみんなプリンセスだもんね。そっかそっか納得納得



「って、折原!なななな、なにして、」



一瞬意識がふわふわして、ふと我に返った時、わたしと折原は体育館の外にいた。涼しい風が気持ちいいけど、だけどわたしの体は全然温度が下がらなくて、体温は上がって行く一方。体熱いし頭いたしし折原がわたしの顔覗き込んでるしもう本当に訳が、まったくわかりません



「顔真っ赤。あんた熱あるよ」

「だだだ、だからって卒業式の最中に、体育館抜け出すとか…ありえなー…」

「…死にそうなくらいふらふらしてたから助けたげたのに」

「別に頼んでないもん」

「…んとに可愛くないよねーあんた。お礼くらい言われても良いと思うんだけど」

「だって、だって今日は…卒業式で、…高校生活は今日で最後で、…ああ、もうめちゃくちゃ」

「いいじゃん。あんた三年間真面目に生きて来たんだからさあ今日くらい、めちゃくちゃでも。つうかあのままだったらあんた倒れてたよ。そっちの方が式をめちゃくちゃにしちゃうんじゃないのかなあ。あんた一人のために卒業式中断とかさ、…まあそんな事どうでもいいじゃん」

「…折原は戻りなよ」

「はっ。戻んないよ。俺だって体調悪いし」

「………仮病のくせに」



体育館の中から在校生の送辞の言葉が聞こえて来る。卒業式のまっただ中、わたしたちは二人だけで休み時間の様な他愛の無い会話をしている。一体何をしているんだろうなー。こんな奴と二人で。わたしは、三年で折原と同じクラスになって、なるべく関わらないように話しかけないようにして来た。だけど今までの努力が台無しだ。



「あんた俺の事嫌いでしょ」

「うん」

「そこ即答なんだ」

「ありがとう折原」

「…は?何のありがとう?」

「さっき、わたしが熱あるの気付いてくれて」

「…ねえタイミングって言葉しってる?」



ふと、折原が学ランを着ていないのに気付くと同時に、わたしのお尻の下になにか違和感を感じた。コンクリの上に座ってるのに全然お尻が痛くない。…ああ、まさかまさかの折原の親切ってやつなのか



「…これ…学ラン」

「ああ俺の」

「いや、わたし座っちゃってたからぐしゃぐしゃじゃん」

「は?別に良いじゃん。もう着ないし、汚れたってシワになったって」

「…折原って意味分からん所で妙な親切心出すよね」

「あんたってホント素直にお礼言うとか出来ないよね…」

「折原に素直じゃないとか言われたくなー」

「あんた地味に捻くれてるよね」

「ってか一年の頃はさあ、あんなに早く卒業したいって思ってたのに。実際卒業ってなったらちょっと寂しいね」

「そう?俺はこれで自由になれると思ったらわくわくするよ」

「でももう皆に会えなくなるんだよ。ちょっと悲しくない?」

「別に」

「…ああそっか。あんた平和島と岸谷くんしか友達いないもんね。あんたの周り女はいっぱい居たけどさ」

「シズちゃんも新羅も友達なんかじゃないし」

「じゃあ友達一人もいないんじゃん。どんまい」

「どうでも良いけどさ。俺と付き合ってよ」



は?



「…あんたさあ、タイミングって言葉しってる?」

「聞いた事無いね」

「…ばーか。あんたさっきわたしに言ってたじゃん」

「忘れた」

「えっ何、折原って本気で頭弱いの?」

「何言ってんの俺三年間学年トップだから」

「…だよねー知ってる。だから嫌いだった折原のこと。勉強全然してないくせに頭良いって。何それ」

「あのさあ、俺だって家ではそれなりに勉強してたから」

「いいよ」

「は?何が?」

「折原と付き合ったげてもいいよって」

「…あのさあ、あんたタイミングって言葉、」







ベリーグッドグッドグッドグッドタイミング!



0313
皆さんご卒業おめでとうございます!
ヒロイン体調は大丈夫なのか^^







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