空の青が溶けて、じわり、滲んで、資料が散らかった部屋を毒々しい赤色に染め上げる。窓から滑り込む赤は、暗くて埃っぽい不健康な部屋には似合わずどこかグロテスクだ。光が差し込む一部分にだけきらきらと細やかな埃が反射して、少しだけ綺麗。だけどこの閉鎖的な部屋中に埃が舞っていると思うと呼吸を止めたくなる。そしてその不健康な部屋を生み出した本人がベッドで死人の様に眠っていてこの不健康な部屋は完成するのだが、この部屋の持ち主である折原臨也が全くこの部屋に溶け込めていない。彼の無駄に美しい容姿が完全に彼を浮かしていた。…つまり臨也はこんなに美人の癖に部屋は死ぬほど散らかってますって話です。



「鍵開いてたから入ったよ」



当然死人中の臨也から返事など帰って来ない。ずれ落ちた掛け布団を掛け直してやり、取りあえず息を吸うだけで病気になりそうな空気を入れ換えようと窓を開ける。生暖かい心地よい空気が入ってくるのを感じ、一安心。臨也は全く起きる気配が無く、一定のリズムで体が上下し、その度に掠れた寝息が聞こえる。



「またこんなに部屋散らかして…わたし一週間に何回大掃除すればいいのさー」

「…………」



臨也の長い睫毛が頬に影を落とす。本当に美人だなあ臨也は、と彼に出会ってから今日までに何度同じ事を思っただろうか。無駄に顔の良い臨也は、今までに何人もの女の子を泣かせてきたに違いない。臨也は人ラブな上に来る者は拒まずな性格だから今まで数えきれない程の女の子と付き合って来たんだろうなあとわたしは勝手に思っている。わたしも実際そんな性格に付け込んでのお付き合いなんだけれども。狡いなんて分かっているけどわたしの狡さが今の関係を作り出しているのだからそれで良い。



「…すきだよ」



だけど臨也も十分に狡猾な男だ。こんなに綺麗な寝顔を顔に貼付けているけど、今だって本当は起きている事をわたしは知っている。臨也は狡い。わたしにこの台詞を言わせたくて、今も規則的な寝息を立てているのだ。毒々しい赤い光が臨也の顔を赤く染め上げる。わたしがいくら臨也に恥ずかしい台詞を囁いても、これじゃあ臨也が赤面しているかどうかも分からないじゃないか。きっと臨也はその事も計算済みなのだ。狡くて賢い人。むかつく。



「…部屋、たまには自分で片付けなよね。それから換気しないと病気になるよー」

「……」

「寝てるみたいだから帰るね」




そしてわたしは知っている。わたしが玄関に手をかけた瞬間、後ろから抱きしめられる事を。臨也に抱きしめて欲しくて、臨也が起きているのに気付かないふりをして、帰る気もないのに帰るなんて言って。

やはりわたしは臨也以上に狡いのだ。









0309





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