おはよーなんて能天気な声が聞こえた。いま一番聞きたくて聞きたくない声、一番会いたくて会いたくない人。おはようと返せばまじまじと私を見てきた。 「なに?」 「名前ー、髪切ったな?」 「うん」 一番気付いてほしくて一番気付いてほしくなかった。彼はいつもの調子で口を開いた 「うんうん、似合ってる。かわいい、流石俺の名前」 「ありがとう」 そう返した後暫く黙り彼はあーとかうーとかちょっと唸った。その後に困ったように笑って口を開いた 「いいとは思うけどさ…」 どうした?なんて悲しそうな目で聞かないでよ。正臣には好きな人が居るのに 「なんでもないよ」 「本当か?」 「ただの気紛れだよ」 「ならいいんだけど、失恋かなーなんて思ってさ」 今は優しさに触れたくないよ、気紛れだって嘘に気が付いて。私のわがままだってわかってる、こんなの迷惑だって知ってる。だから髪を切ったのに。 「…馬鹿だな、正臣は」 「そしたら俺が慰めてやろうと思ったのになー」 冗談を言って優しく笑う正臣に心がキュッとした。馬鹿は私なんだ、貴方を好きだった私を置いていこうと思って髪を切っただけなのに。結局離れることなんてできない。 この恋、通行止め 20110326 |