小説 | ナノ





別れを選んだ俺たち、それに少し安堵しながらもぽっかりと何かが足りないことを感じていた。彼女を傷付けなくて済むことだけが俺の救いだった、それでも決めたことに納得しきれていなかった。

どうしていいかわからない俺が知らない間に来ていたのは、彼女と出会った桜並木だった。桜は散り始めていた、去年一緒に此処へ来た時は散ってる桜の花びらを彼女は必死に取っていた。取れた花びらを見せて、『私と静雄は両想いだね』と笑っていたのを思い出し、散っている花びらに手を伸ばした。


「取れねえ、」


もう彼女は俺の大切な人ではないのだろうか、誰かが隣に居てその人が大切にされているのだろうか。それなら春が来たからまた会えるかもしれないと、期待してた俺が馬鹿みたいだ。


「桜ってこんなんだったか、」


彼女が居る時と居ない時だと景色と違って見える、振り向いたらそんな気がしたのは彼女が居たからだ。まるで世界に色が付いたかのような印象だった。


「どういう風に見えたの?」

「…黄色」

「じゃあ私には紫に見える」


足せばピンクになるよ、と彼女は笑った。ほら、と彼女は掌に桜の花びらを捕まえて昔の様に俺に見せてきた。そんな彼女を抱き締めた、彼女の掌にあった花びらは他の花びらの元へ帰っていった。


「大丈夫、ずっとの傍に居るよ」


もう一緒に居られないと思っていた彼女がまた隣で笑い出す。だからもう怖いことなんてないんだろう。


「ただいま」

「おかえり、静雄」


彼女が居れば世界は霞んでも鮮やかに見える。彼女と俺を足せば、世界が暖かく笑ってるはずだから。色も俺達も足し算しよう






甘党主義。様 提出
song DECO*27 feat.MIKU.H

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