小説 | ナノ





 屋上は自由な空間だった。のんびりと出来て、空が近くて、大好きな人が居て。私にはとても心地よかったんだ。私は三年生になった。先輩は卒業した、私は屋上でひとりぼっちになってしまった。

 春なんか嫌いだ、私を一人にするから。先輩を追い出してしまうから。先輩はもう二度と屋上には来ない。時間というのはなんで限りがあるんだろうか、屋上に広がる青を見ていると時間なんて忘れてしまうのに。


「先輩、来ないかな」


 私は先輩がいつも座っていた所の近く、私の特等席に座っていた。離れてしまう離れてしまうと焦っていたのに、私は自分の気持ちすら言えなかったのだ。私じゃ先輩に愛されない、ただの言い訳だけど、そう思ったから。


「平和島先輩、会いたいです」


 最後に先輩にお願いして貰った、私が手に握っている先輩のボタンが暖かくて寂しかった。先輩が居ないなら、ボタンがあっても意味がないのかもしれない。

 先輩が居た場所には誰も居ない。ぽっかり空いた先輩の特等席を見て、私はもう此処には来ないと決めて屋上を出た。


心地よさの意味を忘れた私



20120205

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