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 屋上は自由な空間だった、偶に臨也が邪魔しに来るが比較的ゆっくりと出来る場所で俺は校内で一番気に入っていた。ただ此処に来るのはこれで最後になる。


「平和島先輩!」
「居たのか?」
「はい」


 屋上の扉を開けたら、先客が居た。この後輩は屋上に来る数少ない人間だった。大概俺を怖がって逃げてしまう、この後輩はそんなのお構いなしと屋上に居座り俺に話し掛けてくるようになった。


「明日から家庭学習ですね」
「そうだな」
「先輩、卒業式にボタンください」
「ああ」


 制服からボタンを取り後輩の手に乗せた。何故だかボタンひとつで嬉しそうに少し焦る後輩を見て、女ってわかんねえと云う感想を持った。


「今でいいんですか?」
「別になくても変わんねえよ」
「ありがとうございます」


 後輩の笑った顔も、もう見ることがないんだな。と思った。大体俺の近くに来てなんか話して笑っていた後輩。距離感が少し心地よかったと今更ながら思った。


「なんでボタンなんか欲しがるんだか」
「先輩と過ごしたって証が欲しかったんです」
「よくわかんねえけど…まあ、ありがとな」


 過ごした証か、離れてしまうことを俺よりも後輩であるコイツのが理解しているような気がした。この後輩は俺が居なくなったら寂しがったりするのだろうか、それとも何も変わらずに誰かとこの場所で過ごすんだろうか?


「じゃ、俺そろそろ帰るわ」
「平和島先輩、お世話になりました。また会いましょうね」
「ああ、またな」


 明日からもう此処でこの後輩に会うことはない、無性に寂しい気がしたけどそれを気のせいにして俺は屋上から出て行った。


心地よさの意味を知らない俺



20120128

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