本を読む手が止まっている、今ワゴン車に居るもう一人の人物。いつもなら遊馬崎と狩沢とあちらこちらに行っているのに今日は留守番すると言って、残っていた。 「行かなくて良かったのか?」 「いや、気分じゃなかったんで」 「そうか」 珍しいこともあるんだな、と呟けば助手席に座る彼女は遠い目をしていた。まるでここではないどこかに居るような。 「ふと、自分が捨てたもの思い出したんですよね」 遊馬崎と狩沢と同じ様に彼女も自身の世界の中心を二次元とした。あくまでも二次元と三次元を区別をして、尚いらない現実はポイ。そんな類の奴だった。 「私が捨てた現実のこと…まあ、今ある事実は思い込みで作ったんですよね」 何を言ってるのかさっぱりわからないが、寂しそうな表情を見せて本人はそれに気付かない。 「そうしないと保てなくなって、過去を空っぽにしたんです」 そういえば彼女の昔話は全く聞いたことがなかった。何かがあった過去を自我を守る為に作り替えて消し去った。ただそれだけのこと、それだけのことにふと捕らわれているらしい。 「渡草さんはいなくならないでくださいね。」 「は?」 「大事な人が居なくなるほど怖いことってないから」 最初は意味がわからないと思った、彼女に言葉を付け足させたことに少し後悔して髪をかき上げた。 「ばーか。居てやるよ、お前が嫌だって言うまではな」 「わ、渡草さんがデレた」 「黙れ名字」 「渡草さんがリア充にならないように祈らなきゃー」 彼女ができたら居てくれなくなりますからね、と呟いてやっと俺を見て笑った。 スカーレットの消失 20120730 |