小説 | ナノ




 私もあの人もきっと物語でいえば悲劇のヒロインになるんだろう。そろそろそんな立ち位置も嫌になってしまう。傷心中の彼に近付いたのは私だった、気持ちが向いてないことを知って告白してみたら受け入れてくれた。あれから何ヶ月経っても変化なんかなかったのだ。


「杉江さん」
「ん?」


 この間出掛けた時に街中で見かけたから、後ろ見てって言ってみれば酷く驚いた顔をした。あの顔は彼女が居ると教えた私の方がショックだった。結局私じゃなくてあの人を愛したままで、私が惨めなだけだ。


「この写真破ってもいいですか?」
「駄目だよ」


 優しく諭したってわかる。二人で写ってる写真を残しておくってことは、貴方はそこに止まってるってことじゃない。彼女を捨てたのは貴方なのに、どうしてそのまま動こうとしてくれないの。


「私と出会わなきゃよかったんだよね、杉江さんは」
「そんなことない、そんなこと思わないでくれ」


 私が居なかったら今頃元に戻って絶対にハッピーエンドだった、そうなるはずだったことを杉江さんはわかってる。それにいま彼女の元へ戻ったって遅くはないのに、杉江さんは私に付き合って中途半端な所に止まっている。お人好しすぎるから私みたいなのに漬け込まれるんだ。


「だってまだ好きなんですよね?」
「…違う」


 杉江さんの優しい性格が私に好き勝手にさせる。昔の私だったらこんなこと言う勇気もなく、誰にも何も話さずに杉江さんが気付かない間に消えちゃってたはずだ。


「杉江さんは本当は愛されてたんだよ、すれ違っちゃっただけなんだって」


 私のためにも杉江さんのためにも別れた方がいいと、杉江さんと彼女のことを教えてくれたのは、なんだかんだで優しい黒田さんだった。そんな黒田さんの言葉への私の答えは生意気にも考えておきますだったけれど、こうも煮え切らないと私も愛に餓えてしまう。


「いつまであやふやにするつもりなんですか?」
「あやふやになんか」
「はやくあっち行けばいいんです」


 何か言いたいような顔をしてるけど、私は耳を塞いだ。彼の顔から視線を逸らし呟いた。どうせこんなこと言ったって傷付くのは杉江さんではなく私だとわかっていながらも、もう馬鹿げた言葉を吐くしかなかった。


「私は愛されたいから、もう杉江さんなんていらないよ」


 手と耳の隙間から聞こえた優しい声には寂しさが混ざっていた。ずっと彼の話聞かないように喋り続けていたのに、その努力は無駄だったんだろうか。


「俺には君が必要だよ、まだ不確かだけど好きになってるんだ。わがままだけどもう少し待っててほしいんだ」


 ああ、きっとこれは夢なんだろう。そう思いながら彼に抱き締められた。これが夢じゃないなら、来世では彼女と杉江さんを幸せにしてあげて。だって本当は私、杉江さんに一番にしあわせになってほしい。

C a s e 2 n d m a n



無限ループ様 提出
song vataco feat. GUMI

20120607
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